<14>増殖シグナルがあると伝える"ウソつき”ががんを作る
たとえて言うなら、細胞分裂のプロセスは「増殖因子」「受容体」「細胞内シグナル伝達タンパク」「転写因子」という4人の選手が、細胞分裂というゴール目指して伝言ゲームをしているようなものだ。
選手は次の選手が抱える「チロシン」という物質をリン酸化することでメッセージを伝える。チロシンとは細胞内でタンパク質を作るためのアミノ酸の一種で、細胞内の化学反応を促し活発化させるホルモンだ。リン酸化とはチロシンにリン酸基が結合することを指す。ちなみにチロシンのリン酸化はシグナル伝達だけでなく、細胞周期や増殖、アポトーシス(自死)などのプロセス調整に重要な役割を果たす。
「正常な細胞では増殖シグナルを受け取ってもそのときだけ増殖するようにスイッチが入り、シグナルがなくなればオフになる。ところが、遺伝子に変異がある選手は、“ウソ”をつく。本当は増殖シグナルなど受け取っていないのに、後続の選手に『増殖シグナルがきたよ』と言い、わざと細胞分裂させるよう仕向けるのです」(一石教授)
後続の選手はそれがウソだと気付かない。結果、鳴りっぱなしの増殖シグナルに反応して細胞増殖は止まらなくなるのだ。