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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

将来より今の快適さ 高齢者にとって血圧よりも重要なこと

公開日: 更新日:

 高血圧が重要なのは、脳卒中心筋梗塞のリスクがあるからです。年率数%で起こる脳卒中や心筋梗塞を1年くらい先送りするというのが降圧薬の効果ですが、その効果は1年後、2年後のことで、今の調子とは関係がありません。その場の血圧が下がったからといって調子がよくなるわけではないのです。

 介護を必要としない元気な高齢者であってもそれは同じです。75歳の高齢者が5年間、毎日高血圧の薬を飲み続け、80歳でなるはずの脳卒中を先送りし81歳で脳卒中になるのと、血圧のことなんかまったく気にせず、5年間薬も飲まずのんきに暮らし、80歳で脳卒中になるのを比べた時、どちらがいいかといえば、むしろ後者のほうがいいという人もいるのではないでしょうか。

 介護が必要な人にとっては、下がりすぎで具合が悪くなるほうが心配で、血圧の薬を5年間飲む間に何度も食後低血圧で気を失いそうになるくらいなら、1年くらい早く脳卒中になってもいいと考える人も案外多いかもしれません。

 高齢者となればなるほど、介護が必要な状態になればなるほど、将来より今が大事だというほうが普通ではないでしょうか。多くの高齢者が将来より今の快適さを重視して、血圧から自由になって、降圧薬など飲まずに、日々を暮らせたら、血圧を気にしながら毎日薬を飲む生活と比べて、ずいぶん幸せな人生だと思います。1年後、2年後よりも、今のことを重視したほうが、多くの高齢者は気分よく暮らせるのではないでしょうか。

 元気に活動している高齢者と、寝たきりの人では、脳卒中を起こしたり心不全を起こしたりした時の意味合いも全く違います。前者にとっては歩けなくなるかもしれない脳卒中は重大ですが、もはや歩いていない寝たきりの人にとっては、それほど重要でないかもしれません。

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