医学部に入学する時点から国が丸抱えして管理するのも一案
そもそも、いまの学生は医学部に入学して医師になるまでの過程で公費が投入されています。私立大学の場合、6年間の医学教育費は学生1人当たり約1億1000万円かかっています。6年間の学費が2000万円の大学では、9000万円が公費で賄われている計算になります。国公立大学の場合は授業料が安い分、さらに多くの公費が使われています。医師は国民の税金に支えられて育ててもらっているのです。
そうしたことを考えると、医師は国民に奉仕しなければなりません。「自分の力で医師になった」という考えは大間違いで、世の中のために働いて恩返しをする。そんな意識を学生の頃からしっかり教えていくことが大切です。ただ、いまの医学教育の現場では、そういった意識を教育する時間が足りないのが現状で、どうしても観念論だけで終わってしまう場合がほとんどです。ですから「公費で育ててもらっているんだから、自分さえ良ければいいという考えではダメなんだ」ということを学生に納得させるだけの数字的な根拠を、教育する側が示せるようにならなければいけません。
もちろん、「患者のため、世の中のために労を惜しまず働く」という意識を持っている学生もいます。しかし、だんだん現実に染まっていって、志を忘れてしまう医師も多い印象です。また、近年は女性医師が増えたことで医師同士が結婚して家庭を築くパターンも増えました。そうなると2人でそこそこ稼いで、そこそこの暮らしができてしまうため、「まあ、この程度でいいか」という安定志向に落ち着いてしまうケースも増えてきています。いまは学生の頃からそうした風潮を感じます。
院長を退き、後進育成にもさらに力を注げるようになったいま、技術的な教育だけではなく、精神面の育成や医師としての“魂”を叩き込み、世のため人のために力を尽くす一人前の医師をひとりでも多くつくっていきたいと考えています。