チンゲンサイは食感の違いを楽しみながら高血圧予防
二日酔いや胃もたれに効く“浮気”植物
チンゲン菜は、白菜の仲間。中国の華中・華南地方原産。今では中華料理のごく一般的な食材だが、私の少年時代にはあまり聞かなかった名前だなあ、と思って調べてみると、日本に入ってきたのは日中国交樹立(1972年)後とのこと。「チンゲンサイ」は「青梗菜」の中国語読み「チンゴンツァイ」に由来し、「青梗」とは「茎が緑色」という意味で、茎が白い「パクチョイ」と区別しているそうだ。
炒めたりスープに入れたりしてもシャキシャキした軽快な食感が失われないので、さまざまな料理に多用される。これはチンゲン菜のセルロース繊維の網目が分厚く、しっかりしているからだ。二日酔いや胃もたれがあるときの健胃食としても好まれる。露地ものの旬はちょうど今ごろ、秋の野菜だが、ビニール栽培によって一年中市場に出回っている。
実は、チンゲン菜や白菜の類いはみなアブラナ科の野菜で、生物学的にはたいへんな“浮気”植物として知られている。というのも、ちょっと種が違っていてもすぐに花粉と雌しべが反応し、あいの子野菜ができてしまうのだ。これは多様性を求める進化のことわりから見れば合理的なのだが、野菜農家にとっては困りものなので、彼らはわりと気を使っている。以前、私が取材した例では、地元産の品種を守るため、隔離された島で栽培が行われていた。とはいえ、チンゲン菜を食べたからといって浮気性になるわけではないのでご安心を。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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