里芋は皮付近の豊富な栄養とうま味を逃さないこと
以前、台湾のチョウを観察するために本島南部の海上の小島に出かけたことがある(私は、子どもの頃からの虫オタク、それが高じて生物学者になった)。
人里を離れて山道を上っていくと、斜面の密林の中に思いがけず狭い段々畑が作られていた。谷筋から水が流れ込んでいて、青々としたハート形の葉っぱが茂っていた。里芋だ。日本では主に畑で作られているが、奄美諸島以南ではこのように水を張って育てていることが多い。日照の多いところではその方が収穫量が上がるからだ。
秋が旬。里芋を掘り出したことのある人はよく知っていると思うが、根は一抱えもあり、そこに小さな丸い芋がびっしりとついていて、おのずと自然の恵みの豊かさに感謝することになる。これはすべて里芋が光合成によって、大気中の二酸化炭素を炭水化物に変えてくれたもの。芋こそが重要な炭水化物源=主食として人間の文明を支えてきた。里芋は、じゃがいも、さつまいもに比べて、独特のぬめり、ネバネバ食感があり、これがまた煮物などにするとおいしい。
ネバネバの正体はマンナン、ガラクタンなどの食物繊維。これも光合成の産物だが、人間にとってはノンカロリーの健康成分。整腸作用、消化促進、免疫力向上などの作用が知られている。俗に「芋の子を洗う」という表現は、里芋をたらいの水に入れ、板でかき回して皮をとる作業から来ている。里芋はシュウ酸を多く含むので、よく水にさらして、加熱しないとえぐみの原因となる。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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