わかめは生に近い食感を楽しみながら免疫力アップ
機能的な栄養素を長持ちさせる基本原理
食料の腐敗を防いで、いかにして長持ちさせるか。これは食文化史における最大の課題だった。
人類はさまざまな知恵を絞ってきたが、基本的な原理はごく数種類の方法しかない。乾燥する(水分が減ると微生物が生育できない)。塩漬けにする(塩分濃度が上がると、微生物も細胞なので水が吸い出され生育できない)。酢や乳酸によって酸性にする(酸性で生育できるのは限られた微生物だけで、有害なものはごく少ない)。発酵食品が保存性に優れるのも、原理的には乳酸菌による酸性化である。
冷凍食品やレトルト食品(密閉して加熱する=缶詰と同じ)は現代になって考案された保存法。海に囲まれた我が国では古来、海産物を日干しにしたり(乾燥)、塩蔵したりして保存食品を作ってきた。塩わかめはその代表例である。
食べる前に水につけて塩抜きする必要があるが、わかめには機能的な栄養素がたくさん含まれている。食物繊維、アルギン酸(ねばねばの多糖類成分)、フコイダン(硫酸を含む多糖類成分)には、整腸作用の他、血中コレステロール低下作用、動脈硬化や心筋梗塞を防ぐ作用があることが動物実験などから示唆されている。また、わかめに含まれるペプチド類(アミノ酸がつながったもの)には血圧降下作用を示すものがある。特に注目されているのが、わかめの褐色色素フコキサンチンである。脂肪細胞で脂肪の燃焼を促進する作用があり、また抗腫瘍作用も見いだされている。各種ビタミン、必須ミネラルなどもバランスよく含まれている。わかめは極め付きの健康食品なのである。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。