がんが発覚して診療できなくなった医師が見つけたもう一つの人生
Rさんは、今度はとても悲観的になりました。
「診療もできない。生きている意味がない。この先を考えるとつらい。死にたい」
奥さんにそう打ち明けたそうです。
「何を言ってるのよ! 声が出ないくらいで……男でしょう?」
奥さんに叱咤され、Rさんは喉頭全摘の手術を受けました。呼吸は、鼻と口が関係なくなり、気管切開した穴で行われます。咳をした時は、その穴から痰が出てきますが、普段は首にガーゼを巻いて穴を隠してあります。食事は口からできて、誤嚥することはなくなりました。
それから3年がたち、幸いがんの再発はありません。初めはボードに字を書いて会話をしていましたが、今は左手でELを首に当てて話します。
そんなRさんからお手紙をいただき、私は3月にご自宅を訪ねました。お会いするのは20年ぶりで、痩せておられましたが元気そうです。玄関にはたくさんの植木鉢が並んでいました。外科医院は閉じて、今は娘さんが嫁いだ先の園芸店に勤めているそうです。