新進気鋭ゲノム学者語る 人間からネコやトラに感染した意味
新型コロナウイルスはRNAウイルスの中でも、オルソコロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属に分類されている。新型コロナウイルスに配列が類似するウイルスとして知られる重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、そして、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスも同じ属だ。英国エディンバラ大学の研究者らの報告では、新型コロナウイルスの進化速度は、SARS、MERSのものと比較して、ほぼ同じだと推定された。推定された進化速度をもとにすると、新型コロナウイルスのRNAゲノムに1年間で蓄積される塩基変異は3万個の塩基のうち24個程度だとされる。
「変異した塩基の一部はアミノ酸の置換、すなわちタンパク質の性質を変化させる可能性があるものなので軽く見てはいけませんが、現時点では感染力が強まったという実験データはありません」
では、なぜ、新型コロナウイルスはネコやトラに感染したのか?
「コロナウイルスは人間以外にもさまざまな哺乳類・鳥類に感染することが知られています。例えば、ベータコロナウイルス属には、イヌの呼吸器で感染を起こすイヌ呼吸器コロナウイルス、若いブタに脳脊髄炎を起こすブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、その他、ウシ、ウサギ、ネズミなど、さまざまな生物に感染するコロナウイルスもあります。今回の新型コロナウイルス、そしてSARSウイルス、MERSウイルスと類似するウイルスはコウモリを中心に見つかっていて、コウモリが自然宿主だと考えられています。また、SARSウイルスのときもネコに感染した例が報告されていました。そのため新型コロナが登場したときからネコやネコ科のトラへの感染は想定されていたのです」