熱中症だと思っていたら夏血栓…手足がしびれたら119番
夏になると熱中症のリスクが指摘されるが、同時にリスクを十分に認識しておきたいのが「夏血栓」だ。
先日、静岡県御殿場市の東富士演習場で、男性自衛官の陸曹長(45歳)が20キロ歩く「徒歩行進訓練」を終えた後に死亡した。死因は、血栓による心筋梗塞だった。陸上自衛隊第1師団が発表した。
「これは、夏血栓と呼ばれるものでしょう。熱中症と間違われやすいのが、夏血栓です」
こう話すのは、国際医療福祉大学熱海病院検査部長の〆谷直人医師だ。 夏、汗をかいて脱水になると、血液中の水分が減って血液が「ドロドロ状態」になる。それによって血液の塊(血栓)ができて血管をふさぎ、血流が滞る状態を夏血栓と呼んでいる。
「汗をかいて脱水」というと、熱中症もまさにそうだ。気温の高い環境にいることで体温の調節がうまくいかなくなり、体内の水分や塩分のバランスが崩れて発症する。さらに体内が高温になると、中枢の体温調節が働かなくなり、多臓器不全などで死に至る。
「しかしながら、熱中症では血栓による血流の滞りは生じず、脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症は起こしません。熱中症では、水分や塩分を取り、体を冷やすことで回復していくケースが多い。それに対し、夏血栓の大半は、すぐに病院で血栓を溶かす投薬治療などの処置を取らないといけません」(〆谷医師=以下同)
特に夏血栓で脳梗塞を起こした場合、発症から治療までにかかる時間のデッドラインは4時間半といわれている。
「夏血栓は突然死のリスクがあり、熱中症よりも早く適切な治療が必要です。しかし熱中症と夏血栓の初期症状はかなり共通しており、熱中症だと思って対処してしまうケースが珍しくない。『熱中症にしてはおかしい』と思う症状があれば、病院へ救急搬送しなければなりません」
■体の片側の症状がポイント
熱中症と夏血栓に共通している初期の症状は、めまい、疲労感・倦怠感、動悸、息切れなど。見分けるポイントは、体の片側に表れる症状だ。
「夏血栓では、顔や手足のマヒやしびれ、口や眉毛などのゆがみが、体のどちらか片方に表れます。片腕・片足だけ力が入らない、水を口に含んでもうまく飲み込めずこぼれ落ちてしまう症状が見られれば、夏血栓が強く疑われます」
ろれつが回らない、胸の痛みがある場合も夏血栓の疑いがある。
また、これらの症状はしばらくすると治ってしまうことがある。血栓が流れて血流の滞りが解消されるためだが、夏血栓のリスクが去ったわけではない。早ければ数日以内に脳梗塞などを起こす可能性があるので、病院で検査は必須だ。
今回亡くなられた自衛隊の陸曹長は45歳だった。この年齢を見ても分かるように、条件が重なれば、だれにでも夏血栓を起こすリスクがある。しかし、やはり高リスクなのは、高血圧や動脈硬化を抱える高齢者だ。
「さらには、夏は糖質を多く摂取するため血糖値が高くなりやすい。若くても血糖値が高い人は夏血栓になりやすい。仕事などで座位の姿勢が長い人も血流が滞りやすく、年齢に関係なくリスクが高くなります」
日頃からできる予防策としては、まず水分補給。これは熱中症と同様だ。次に血液をサラサラにする食事。青魚や納豆、玉ネギなど血液サラサラに効果的な成分を含む食事を日頃から取る。カカオが70%以上含まれているチョコレートも、フラボノイドという成分が多く血流にいいといわれている。そして、ずっと同じ姿勢を取らず、2~3時間に一度は手足を動かすことも大事だ。