児童虐待の可能性も…「眼底出血」で見分けがつくのか
欧米では、親が子供を叱る時に子供の頭や顔を手で打つという行為は典型的な幼児虐待として強く忌避されてきました。その代わりに子供の肩を掴み、前後に揺さぶることがあったようです。そのような子供は脳に損傷を受けて、急性硬膜下血種や脳浮腫などを生ずる場合があります。そして、そのような子供の眼底には眼底出血を伴うことも多く、急性硬膜下血種、脳浮腫、眼底出血が揺さぶられっ子症候群の3兆候とされました。日本でこの概念が紹介された時には、親が子供を高く持ち上げたり揺すったくらいで脳に損傷など起きるものか? と思われたものでした。しかし、最近では乳児虐待例の存在が広く認知され、小児科医や救命救急医が急性硬膜下血種や脳浮腫に眼底出血を伴う乳児を見た場合には、乳児虐待を疑って児童相談所に通報することが求められるようになってきています。しかし、その判定が一般的になってしまうことで、容易に有罪判決が出てしまい、その後の上級審で、逆転無罪になるような事例が出ているのです。
眼底出血は確かに揺さぶられっ子症候群に伴いやすい症状ですが、歩き始めの子供が軽く転倒するだけでも「中村1型」と呼ばれる乳幼児型の急性硬膜下血種が起きて、それが眼底出血を伴うこともあるといわれています。その症例が親による暴行かどうかという意見書を求められる眼科医としては、特に慎重な判断をしなくてはならないと知りました。