手術の進歩は患者の負担を小さくする「低侵襲化」にある
最初の手術で機械弁を使った場合は、何かトラブルが起こってもTAVIは行えません。ですから、将来的にTAVIの実施が可能な患者さんには、最初から生体弁を選択する傾向にシフトしているのです。
もちろん、将来的なTAVIの実施に合わせて無理やり手術法を変えているわけではなく、最優先しているのは現時点での患者さんの満足度を向上させたり、術後の生活の質を損なわないような治療で、なおかつエビデンス(科学的根拠)が確立されている方法を提供しています。TAVIの登場によって手術の選択肢が増えたと言ったほうがいいかもしれません。
TAVIの最大のメリットは「負担が少ない」=「低侵襲」なところです。体への負担が少なければ、それまで決定的な治療ができなかった高齢者や慢性疾患がある高リスクな患者さんも治療が可能になります。そのため、外科医が行う手術も低侵襲化の方向に進歩しています。
たとえば、人工心肺装置は使わずに心臓を動かしたまま手術を行う「オフポンプ手術」の導入がそのひとつです。心臓を止めている時間が短ければ短いほど、患者さんの負担は小さくなります。また、それまで大きく切開して行っていた手術をより小さく切開する「MICS(ミックス)」や、患者さんの体温を下げて血液循環を止めて行っていた手術を、体温をできるだけ下げずに実施することも負担を軽減します。