「BPSD」のひとつが幻覚や妄想 認知症の30~40%でみられる
安心感を与えることが非常に大事
アルツハイマーでは、初期から中期にかけて被害妄想がみられることが多いといわれています。アルツハイマーでの妄想は過去の研究によって2つのカテゴリーに大別されています。
ひとつは「自己と他者との関係性や状態についての妄想」。映画や本などで、「家族が私のお金を盗んだ」と周囲に訴える認知症の方が出てくるシーンを見たことがある人もいるのではないでしょうか。これは家族が自分の金品を盗もうとしていると妄想する物盗られ妄想。ほかにも、つれあい(妻・夫・パートナー)が浮気していると妄想する嫉妬妄想、家族が自分を見捨てようとしていると妄想する見捨てられ妄想、他人が食事や飲み物、薬に毒を入れていると妄想する被毒妄想などもあります。
もうひとつは「誤認」です。夫を父親と誤るなど相手を異なる人と間違える人物誤認、他人が家に住んでいると訴える幻の同居人、自宅が自宅でないという場所誤認。「亡くなった身内が生きていると言う」「外見は同じだが中身が他人に入れ替わっていると言う」「同じ人が複数人いると言う」など、さまざまな誤認があります。
これらの妄想に対して、非薬物療法として十分なエビデンスのある治療は現時点では存在しません。妄想が生じるのは、脳神経の障害が根本的原因なので、理屈を述べて「そうではない」と周囲が言っても、認知症の方がそれを受け入れることは困難です。
まず行うべきは、本人の訴えを傾聴すること。頭ごなしの否定は絶対に避けるべきです。
認知症の妄想は、自分の能力が低下してしまったことへの不安や喪失感、劣等感、孤独感からきているともいわれています。たとえば「妻がほかの男と浮気をしている!」と思い込む被害妄想では、認知症患者とそうでない伴侶(この場合は妻)の健康状態格差が影響しているとも指摘されているのです。
受容的・共感的態度で接し、安心感を与えることが非常に大事。「認知症だから何もできない」とするのではなく、役割を与え、生きがいを持ってもらうことも重要です。