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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

認知症治療は薬も大切だが、もっと大切なのは「発症・進行を遅らせる」こと

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聴覚障害があると認知症のリスクが約2倍高くなる

 解決できる危険因子のひとつ、聴覚障害。権威ある医学雑誌「ランセット」に2017年に掲載された論文では、聴覚障害があると認知症のリスクが1.9倍になると指摘しています。

 聞こえの悪さは、病気が原因のものもある一方で、年齢を重ねればだれもが聴力は落ちていきます。また、今はヘッドホンやイヤホンで長時間音楽を聴き続けている人が増えています。コロナ禍以降、オンライン会議や打ち合わせでヘッドホンなどを使う機会が増えた人もいるでしょう。

 大きな音で聴いていたり、長時間音にさらされ続けると、聴力が低下するといわれています。かつてよりも早く、難聴気味になる人が増えることが考えられます。

 聞こえが悪いために周囲とコミュニケーションを取りづらいと感じるようになると、孤独(社会的接触の少なさ)につながりがち。

 また、国立長寿医療研究センターが難聴と認知症について行った調査では、難聴がある患者さんでは物忘れの自覚や不安感、焦燥などの精神的な症状を感じる割合が多く、抑うつ気分がある患者さんもいました。さらに、難聴は高齢者の日常生活動作や生活の質にも関係していました。

 東京都在住の80歳の男性は、こんなエピソードを話してくれました。

 その方は、もともとは友人が多く、社交的なタイプ。

 しかし、70歳を過ぎたあたりから、友人たちとの会話中、聞き返すことが増えてきた。

 親しい仲間なので、何度でも言い直してくれるのだけど、それがかえって申し訳なく、また、聞き返す自分も恥ずかしく、人に会うのがおっくうになっていった。居酒屋などたくさんの人が集まる場所では余計に聞き取りが悪いので、以前は必ずと言っていいほど参加していた飲み会も断るようになっていった。

 その男性はおひとり暮らし。家にこもっていると、一日中だれとも話さないことはザラ。次第に「これじゃ脳の機能が落ちていくんじゃないか」と心配になってきたそうです。

 耳鼻咽喉科を受診し、紹介状を書いてもらい、補聴器のいわば専門家である認定補聴器技能者がいる販売店に相談。適切なフィッティングや調整を繰り返し、購入後も細かな調整を経て、自分に合った補聴器を手に入れた。それからはかつてのように積極的に出かけ、人とコミュニケーションを取るようになったとのこと。

 この男性の行動は、認知症の2次予防、3次予防にしっかりつながっているな、と感じました。

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