心筋梗塞後の心不全…命が助かってから別の病気を招くケースが増えた
近年、日本では「心不全」の患者さんが増えていて、中でも注意したいのは「心筋梗塞を起こした後の心不全」だと前回お話ししました。
カテーテル治療の進歩により、急性心筋梗塞を起こしたら、まず循環器内科でカテーテル治療が行われるケースが急増しました。詰まった冠動脈にカテーテルを挿入して血行を再建するPCI(経皮的冠動脈形成術)が全国的に浸透し、一命を取りとめる患者さんが増えたのです。
しかし一方で、心筋が広範囲に壊死している患者さんにもカテーテル治療が行われ始めたため、その後で慢性心不全に至る患者さんが増加しました。カテーテル治療が慢性心不全予備群を生んでいるといった声もあります。
先日も海外出張を繰り返す働き盛りの50代の方が前兆のない急性心筋梗塞となり、緊急PCIとその後の人工心肺装置による生命維持療法を2週間行って救命され、現在は慢性心不全の状態で社会復帰しているという相談を受けました。
そうした状況もあって、急性心筋梗塞に対するカテーテル治療が増えてきた1990年代の終わり頃から、心臓外科による冠動脈バイパス手術と、循環器内科によるカテーテル治療で、治療後に心機能が障害される程度を比較する大規模研究や後ろ向き研究などがいくつも行われました。結果はまちまちなのですが、バイパス手術のほうがその後の心機能が保たれている患者さんが多かったという報告がたくさんありました。
そんな研究結果を受け、心臓外科医は「慢性期の治療においては、バイパス手術の方が患者さんの将来にとって良い」と訴えていますが、循環器内科医にしてみれば、救命率の向上や患者さんの負担が少ないといったメリットから、カテーテル治療を推し進めているのが現状です。
カテーテル治療の進歩が、心筋梗塞後の心不全につながるケースは、ほかの状況でもみられます。たとえば、急性心筋梗塞を起こしてカテーテル治療を受けて命が助かった後、年を重ねるにしたがって心臓弁膜症が進行し、心不全につながるケースがあります。心筋梗塞を起こした患者さんに慢性的な心房細動があると僧帽弁閉鎖不全症が進行しやすいとか、動脈硬化がある部分を残しておくと大動脈弁狭窄症が進んでいくといったように、複合的な要素が絡んで心不全を招いているのです。すべて経年劣化が引き起こす構造上の心臓トラブルですから、心筋梗塞後の心不全は、“長寿社会の落とし子”のようなものといえるかもしれません。