長寿研究のいまを知る(9)長寿におけるmTOR阻害薬とカロリー制限の関係
「細胞内の栄養状態を監視して細胞増殖・分裂のタイミングを決めるmTORを働かせないようにすると、細胞は栄養不足と判断して分裂に使うエネルギーを節約してオートファジー(自食作用)に振り向けます。すると細胞内ではタンパク質を新たに合成せず、細胞内の不要なタンパク質などを再利用する。その結果、細胞の増殖スピードは緩やかになり、老化も遅くなる。つまり、mTORの活性化を抑えることが寿命の延長に役立つ可能性があるのです」
■細胞内が飢餓状態に置かれることが重要?
そこで思い出されるのが、ヒトはカロリー制限した方が寿命が延長するという考え方だ。
実際、栄養失調にならない程度のカロリー制限を続ければ長生きすることは、さまざまな実験で実証されている。mTOR阻害薬であるラパマイシンがmTORを働かせないようにすることは、カロリー制限をしている状態にするのと同様と考えられる。
「カロリー制限が健康と長寿にどう影響するのかを検証する実験はこれまでも幾度となく実施され立証されています。その結果、酵母、ショウジョウバエ、マウスなど種を超えた、共通の抗老化システムが存在することがわかりました。ヒトにおいても、いくつかの観察研究により、無理のないカロリー制限でも、長寿につながる可能性があることが知られています」(根来医師)