著者のコラム一覧
奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

ある認知症の女性は「主役体験」によって徘徊しなくなった

公開日: 更新日:

 ところが婦佐さんは「独りぼっちだから」とつぶやくようになり、玄関に「帰らせていただきます」と置き手紙を残して出ていくようになった。

 やがて地元でも有名な「徘徊老人」になるのだが、やさしい家族に囲まれながら、なぜ家を出たがるのだろうか。

 当時、婦佐さんはこんな手記を書いている。

〈物忘れがひどく、自分ながら、これからどうなるかと心配でたまらない様な毎日が続いていました。(略)物忘れが気にかかり、夜はおそくなるまで眠れませんでした。私はもうこれで何も出来なくなるのかと悲しく、夜になると涙が流れて困ってしまいました〉

 自分が何者で、なぜここに存在しているかが分かるのも記憶があるからだ。記憶が消えていくと、自己の存在が消えていくような不安におそわれる。そんな彼女を支えていたのが炊事だった。

 家族は親切のつもりで炊事を引き受けたのだが、婦佐さんは生き甲斐だった炊事を取り上げられたと受け止めたらしく、「ここは自分の居場所ではない、帰ります」と出ていくようになったのである。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  2. 2

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  3. 3

    だから桑田真澄さんは伝説的な存在だった。PL学園の野球部員は授業中に寝るはずなのに…

  4. 4

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  5. 5

    「ニュース7」畠山衣美アナに既婚者"略奪不倫"報道…NHKはなぜ不倫スキャンダルが多いのか

  1. 6

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 7

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 8

    ドジャース大谷 今季中の投手復帰は「幻」の気配…ブルペン調整が遅々として進まない本当の理由

  4. 9

    打撃絶不調・坂本勇人を「魚雷バット」が救う? 恩師の巨人元打撃コーチが重症度、治療法を指摘

  5. 10

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した