和田秀樹
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和田秀樹精神科医

1960年6月、大阪府出身。85年に東京大学医学部を卒業。精神科医。東大病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書多数。「80歳の壁」(幻冬舎、税込み990円)は現在、50万部のベストセラーに。最新刊「70歳の正解」(同)も好評発売中。

「在宅死」を勧める政府にダマされない 介護施設の選択が決して悪くないと言える理由

公開日: 更新日:

 前回、在宅介護と在宅看取りの違いを説明しました。その背景には、政府の思惑が絡んでいることをご存じでしょうか。今回は、その点に触れながら、ポイントを解説します。

 介護が必要で自宅で世話をし切れないケースは1990年代半ばまで入院が当たり前で、社会的入院と呼ばれました。それほど重い病気がなくても亡くなるまで入院が可能で、実質的な介護は病院が担っていたのです。

 そんな状況に高齢化の進展や医療財政の逼迫、不要な治療で高齢者を食い物にした悪徳病院の摘発などが重なって、社会的入院は医療費の無駄遣いと非難の対象に。長期入院は保険点数が削減され、入院はなるべく短期化される傾向になりました。さらに「介護療養型医療施設」と呼ばれた従来型の老人病院は、今年度末に完全廃止が決まっています。

 一般に高齢者を介護施設で介護するより自宅での介護の方が医療費や介護費用は少ないため、公的な財政の負担も軽いと考えられます。そこで政府は、在宅介護と在宅看取りを混同させるような「在宅死」という言葉を生み出し、財政負担の軽い在宅介護の流れをつくっているのです。

 そんな思惑もあり、自宅での看取りを望む人が8割に上ります。一部では、親を介護施設に預けることが悪いことのようなムードも醸し出されています。

 しかし、本当にそうでしょうか。育ててもらったことへの責任感や義理で介護を引き受けて在宅介護に向かうことは、避けるべきだと思います。認知症などの症状が軽いうちは何とかなっても、重症化すると責任感や感情では親を支え切れないのです。

 親の介護は、子どもひとりで抱え込めるほど、甘くはありません。それが、介護離職や介護うつ、虐待、ときには殺人という最悪の結末さえも生む要因なのです。

■施設を利用することは決して悪くない

 ぜひこの点を見逃さないでください。介護が大好きで、なおかつ兄弟や姉妹もいて、介護の負担を分散できるケースはともかく、そうでなければ介護施設を利用することは決して悪くないと思います。

 配偶者や子どもを含め家族でしっかりと話し合った上で介護施設をついのすみかにすることが決まったら、なるべく元気なうちに、認知症なら症状が軽いうちに情報収集を丁寧に行い、体験入居をしておくことが大切。一口に介護施設といっても運営主体や入居条件、介護の中身、そして費用など全て異なります。

 病院で最期を迎えるのが嫌で施設を選択したのに、その中には入居者の状態が悪くなるとほぼ問答無用に精神科病院に送るケースもあります。これでは本末転倒。介護施設は玉石混交ですから、入念なチェックが不可欠なのです。

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