睡眠の準備は朝から始まる! ハーバード大医師が説く「戦略的休息」のススメ
現代人は夜間も交感神経が優位で…
根来氏はそのエッセンスを「ハーバード&ソルボンヌ大学ドクターが教える! 超休息法」(徳間書店)にまとめている。詳細は著書に譲るが、戦略的な休息を取るためのポイントを教えてもらった。
重要な会議やプレゼンの前に心臓がドキドキして緊張するのは、交感神経が優位になるためだ。そうすると、心拍数が上がり、血管が収縮。血圧は上がる。脳や筋肉に血液が集まり、頭の回転や体の動きはよくなる。
一方、副交感神経が優位になると、心拍数が下がって血管が拡張するため血圧は下がる。脳や筋肉への血流は減り、心身ともにリラックスした状態だ。
これが一般的な自律神経の仕組みで、一方が優位になると、もう一方は控えめになり、ゼロになることはない。両者が常にうまくバランスを取っているのだが、現代人は夜間に交感神経が優位になりがちで体が休まらないという。
「本来、夜は副交感神経が優位になって、リラックス状態になり、安眠に結びつくのですが、スマホやPCなどの普及でベッドでスマホを見たりすると、本来優位になるべきタイミングに副交感神経が優位になりません。そういう人は、たとえ眠っていても交感神経が優位なため、睡眠時間は足りていても、朝だるい状態で目覚めスッキリしないのです。その影響で日中に優位になるはずの交感神経は十分上がらず、仕事のパフォーマンスは下がりやすい」
自律神経が働くタイミングが逆転しているわけだ。根来氏は自律神経の働きを測定するデバイスを使ってデータを集めた結果、逆転現象の人が少なくないことを見いだした。それを改善することが戦略的な休息のひとつで、そのカギは朝にあるという。
「自律神経のバランスを含めて、あらゆる生体機能にリズムがあります。そのリズムを体内時計でコントロールしているのが時計遺伝子で、周期は24時間11分と判明。起床して朝日を浴びると、親時計がリセットされ、そのシグナルが子時計を調節するスイッチになって、自律神経が整います。2つ目のスイッチが食事で、特に朝食を起床後1時間以内に取ることは子時計に直接働くスイッチとして重要です。つまり、朝日を浴びてから1時間以内の朝食が戦略的な休息の一歩なのです」
3つ目のスイッチが運動だ。通勤の行き帰りで歩く。エレベーターなどはやめて階段を上り、ランチはやや遠めの店まで歩く。そうやって歩数を稼ぎ、「1日1万歩が目安」だという。デスクワークで座りっぱなしの人は休憩にスクワットしたり、適度にトイレ休憩を挟んで歩いたりしてちょこまか運動することが子時計を通じて自律神経のバランスを整えるスイッチになる。
「ランチの前後はぜひ歩いてください。精神を安定させるセロトニンは正午ごろに分泌が高まります。しかも一定のリズムを刻む運動でより分泌が促進されるのでウオーキングは最適。夜間に分泌されて安眠をもたらすメラトニンは、そのセロトニンから合成されるので、ランチ前後の散歩はとても効果的です」
ランチで腹がふくれると眠くなる。その眠気は満腹感によるものではなく、実は時計遺伝子による生体リズムの影響だという。13時くらいになると体温が下がり、眠気が誘導されるそうだ。
「そこで15分の昼寝をすると、午後の仕事のパフォーマンスが上がって、夜の睡眠も妨げません」
デスクワークを終えてダルくても電車で自宅の最寄り駅まで直帰するのではなく、むしろ1駅か2駅手前で降りて歩く時間を設ける方がよい。終業後の19時くらいにかけて筋肉が刺激されると、成長ホルモンが分泌されるという。
「成長ホルモンが最も分泌されるのは、睡眠に入って最初の深い眠りのタイミングです。その働きは成長期を過ぎた成人の場合、全身の代謝や細胞の修復など。19時の分泌と睡眠時の分泌が相まって、体を効果的にメンテナンスすることができるのです」