他人の評価に振り回されない勇気…「認められたい欲求」が人に迎合し、やがて信頼を失う
独創的なものほど、初めは評価されにくい
価値があれば評価されますが、評価が価値を決めるわけではありません。たとえば芸術作品であれば、作品の価値が正しく評価されるとは限りません。多くの人が同じ評価をすれば、その評価は正しいと見えますが、ほとんどの人が高い評価をしないからといって、作品に価値がないことにはなりません。
仕事であれば、芸術作品ほど人によって評価が大きく分かれることはないかもしれません。それでも、評価は仕事の価値を示す一つの指標ではあっても、評価がすべてではありません。その評価が仕事の量的な面に焦点が当てられているのであれば、評価が正しくないことはありえます。時代を先駆ける独創的な仕事は、今の世の中でその価値が正しく評価されないこともあるでしょう。
もちろん、誰にも認められないことが自分の仕事に価値があることの証にはなりませんが、誰からも受け入れられるにはどうすればいいかということばかり考えている人は、認められるために人に迎合するような仕事しかしなくなります。そのような仕事をし続けていれば、誰の考えにも反対しないイエスパーソンが信頼を失うように、その人もいずれ信頼を失うことになるでしょう。
仕事をするときに、受験のテクニックに長けた人が出題者の意図を見抜いて求められる解答をするようなことをしていれば、評価されるかもしれませんが、いつまでたっても、独創的な仕事をすることはできません。
時に正しく評価されないとしても、仕事の評価と価値は一致しないことがあることを知っていなければなりません。他者の評価に振り回されない勇気を持つことが大事なのです。
▽岸見一郎(きしみ・いちろう) 1956年生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを歴任。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究。著書に、ベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)のほか、『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)、『幸福の哲学』(講談社)、『つながらない覚悟』(PHP研究所)、『妬まずに生きる』(祥伝社)などがある。