<第29回>“フィギュアの怖さ”を知らされたフリーでの重大ミス
私も一度、そんなミスをしたことがありました。
12年シーズンの初戦だったジャパンオープン(国別対抗戦)のフリー演技でのことです。
プログラム中盤までは順調に演技をこなせていたものの、後半部に差し掛かるリンク中央でのスピンで「事件」が起こりました。
本来ならスピン終了後、後方に滑り出る予定だったのですが、実際は反対方向の前方に出てしまったのです。
瞬時に「まずい!」と頭の中が真っ白になりました。
リンクは楕円形ですから、そのまま滑っていても演技が「裏返し」になるだけ。よほどのファンでない限り、ミスには気づきません。しかし、当時の演目は最後の見せ場のステップをジャッジ(審判)向きに作っていました。ミスしたままでは、そのステップが真逆になり台無しになってしまう。そう思った私は最後のジャンプで方向を修正。何とか終盤のステップまでに本来のプログラムに戻すことができたのです。
今でこそ笑って話せますが、ミスした瞬間のリンク上での動揺や焦りはいまだに忘れられません。同時に、プログラムを中断できないフィギュアの怖さ、難しさを知らされたのもこの時です。コーチからは「(ミスを)気にすることなく最後までやればよかったのに」と言われましたが、この日はシーズン初戦で初めてお披露目するプログラム。どうしても構成どおりやりたい自分がいましたので……。
ちなみにこの大会は一緒に出場した日本チームの高橋選手、小塚選手、浅田選手が好成績を残してくれたおかげで、日本チームが優勝。みんなのおかげです。
(つづく)