86年Vの成功体験 アルゼンチンを苦しめるマラドーナの呪縛
この呪縛が解けたのは、94年アメリカ大会だった。フォワードのロマーリオとベベットの2人を残して、中盤からしっかり守るサッカーを繰り広げた。「フッチボウ・アルチ」を放棄したことについて、大会前からブラジル国内で批判された。しかし、優勝することでそうした雑音を封じたのだ。
一方のアルゼンチンの呪縛とは86年のメキシコ大会だ。これは今に至るまで、1人の選手の力により優勝を勝ち取った唯一の大会と称される。1人とはもちろんディエゴ・アルマンド・マラドーナである。イングランド相手に、彼が1点目を“神の手”で、2点目を5人抜きで決めた大会として記憶されている。
10年大会からW杯に出場してきたリオネル・メッシは、同じ左利きで背番号10番をつけたマラドーナと比較され、彼の幻影に悩まされ続けてきた。
今大会でも格下相手である初戦のアイスランド戦、アルゼンチンは「メッシに試合を託します」とばかりにボールを集めた。当然、その意図は相手に見え見えだった。そして屈強な肉体のアイスランドにより、小柄なメッシは潰された。サッカーはメンタルのスポーツでもある。クロアチア戦ではそれが尾を引き、メッシの動きは精彩を欠いた。