球団経営の専門家が提言「NPBは今季開幕断念の宣言を」
プロ野球の開幕戦が行われる予定だった3月20日。新型コロナウイルスの影響で延期になり、同日から始まる公式戦は無観客の練習試合になった。開幕延期が続けば続くほど、日程消化は厳しくなる。各球団が死守したい143試合の通常開催も不透明だ。オリックスの元球団代表でプロ野球の経営に詳しい井箟重慶氏(現関西国際大学名誉教授)に話を聞いた。
■収入は実質ゼロ、経営どころではない
――NPBは4月10日に開幕を予定しています。それまで無観客の練習試合が続きますが、球団経営にはどんな影響がありますか。
「プロ野球のメインの収入はお客さんの入場料。チケットが売れないということは実質、収入ゼロと言ってもいいでしょう。球場のグッズや飲食店の売り上げもなくなるわけですから、経営という意味では当然、成り立ちません」
――遠征費もバカにならない。
「遠征の出費は移動費と宿泊費がほとんどです。私がオリックスにいた時代の1試合ごとの金額は覚えていませんが……球団はシーズン全体で年間20億円から25億円の赤字だった。当時のパ・リーグはテレビ中継がほとんどなく、全球団赤字。セは放映権料の高い巨人戦があったので、全球団黒字だったんですけどね」
――現在は無観客でもネットや衛星放送で中継がありますが……。
「広告収入や放映権料では、遠征の持ち出し分を補填できません。放映権料も昔に比べて、相当下がっている。昔は1試合1億円といわれた巨人戦も、今はいくらになっているのか……。収入と呼べるほどの収入があるかどうか疑問です。主催試合の収入が期待できない上、遠征費で出費ばかりがかさむ。最初に言ったように、球団経営どころではありません」
■オフの査定混乱は必至
――仮にこのまま延期が続いて公式戦の試合数が減るようなら、オフの契約更改にも影響が出ますか。
「そこは割り切れればいいのですが、難しいでしょうね。たとえば試合数が半分になれば、アップ額もダウン額も半分。状況が状況なので、選手の多くは文句を言わないでしょう。全体的な査定方針はそれでよくても、選手個々の細かいケースが問題です」
――どういうことですか。
「ホームランを毎年40本打つような選手が、試合数が半分になったからといって20本打つとは限らない。前半戦で本数を稼いだり、後半戦で帳尻合わせをする選手もいる。開幕に合わせず、投手がバテてくる夏場にピークがくるように調整し、終わってみれば『ほら、30本打ちましたよ』と。ベテランの中にはそういう調整をわざとするのもいるんですよ。だからといって『あんた前半戦サボってたやろ』とは言えない(笑い)。通常のシーズンでも査定は難しいのだから、今季はなおさらです」
――各球団ともにダメージコントロールが重要になる。
「いかに経費を削減するかですね。プロ野球は人気商売なので、見えを張りたがる傾向がある。最近も某球団のレギュラーが、大した成績でもないのに年俸が大幅アップした。その球団の職員に理由を聞いたら、『他球団の同じポジションの選手と比べたら、ウチの選手は安かったから』ですから。なんて意味のない見えかと思いましたね」
各球団オーナーやコミッショナーは動くべき
――井箟さんはオリックス時代、1995年1月17日の阪神・淡路大震災を経験しています。当時は通常開催でしたが、開幕まで問題もあったのでは。
「被災して数日、神戸の街を歩きました。とてもじゃないが、本拠地(グリーンスタジアム神戸)での開幕戦は無理だと思い、近県の球場での代替を検討していました。すると宮内オーナーが『球場が無事なら、試合をやれ』と言った。私は『無理ですよ。仮に開催しても道路もめちゃくちゃで、お客さんが来れません』と反論したら、宮内オーナーは『お客さんが来なくてもいい。こんな時だからこそ、試合をすれば地元のファンは安心する。それでこそ本当の市民球団だ』と。私は半信半疑だったんですが、いざ開幕したら満員。驚きましたね」
――選手の中には「こんな時に野球をしていいのか」と悩んだ選手もいた。
「その辺りは仰木監督が、『まずは家族の安全を確認しろ。自主トレなんてしなくていい。その上でキャンプに来れる者は来い』とケアしていた。幸い、家族に被害があった選手はいなかったので全員キャンプに間に合いました」
■プロ野球はファンあってのもの
――そうした成功体験をお持ちの井箟さんでも今回の開幕は厳しい?
「当時と今では状況が違います。仮に4月10日に開幕して、ひとりでも球場で感染者が出たら責任問題になりますよ。今はほとんどのスポーツが中止か延期。中でもプロ野球は日本国内においては観客動員数がトップのプロスポーツなので、感染のリスクも大きい」
――4月10日開幕は無理ということですか。
「私に言わせれば、NPBは『今季の開幕は断念する』と宣言すべきです。その上で『状況が変わって試合ができるようになったら、こういう形で開幕します』と案を提示する。もちろんプロ野球ファンはガッカリするでしょうし、批判の声も出るでしょう。でも、このままできもしない開幕を叫ぶよりはよほどいい」
――現状、このまま小刻みに延期、延期となりかねません。
「無観客の練習試合で遠征をするメリットはほぼありません。現場任せで威張っているだけの各球団のオーナーもそうですが、コミッショナーも動くべきです。たとえば1球団と交渉して、『我がチームのファンから、開幕して我々の大事な選手が感染源となったらどうするんだ、社会問題になるぞ、という声が出ている。残念だが今季は辞退したい』と声明を出させる。すると他球団も必ず同調しますよ。要は最初のひとりになりたくないだけですから。プロ野球はファンあってのもの。金銭面に穴があくのはもう避けられないとして、4月10日にやれるやれないなんて考えるより、中止でもいかにファンをつなぎとめられるか真剣に議論すべきです」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)
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