コロナ禍でプロの年俸縮小が加速か…選手会も事態を憂慮
借金苦と失業者が溢れかえる
深刻な問題である。
新型コロナウイルス感染拡大により、プロ野球とJリーグは公式戦の開幕、再開の見通しが全く立たない。予定されていた試合数(野球143試合、サッカーJ1・34試合)の縮小はもちろん、無観客での開催も検討せざるを得なくなっているのが現状だ。
そうなると球団経営は大打撃を被り、選手の給料にも影響が及ぶのではないか。実際、海外のスポーツ界ではすでに選手の年俸を縮小する動きが出始めている。
公式戦162試合開催が難しくなったMLBは、今季の年俸と出来高が試合数に応じて減額されることが決まった。今季の試合数が162試合の半分(81試合)になれば、年俸と出来高も半分になる。
■ユベントスは年俸100億円カット
サッカー界ではイタリア・セリエAのユベントスが、選手の3~6月分に相当する年俸をカット。その額は総額100億円に上るという。同クラブに在籍するC・ロナウドは4億円強が引かれるわけだが、ロナウドは年俸以外にも自身のSNSの広告収入で年間50億円ほど稼いでいるといわれる。多少の給料減なら痛くも痒くもないだろうが、海外よりも規模が小さい日本ではそうはいかない。
サッカーJ1の札幌では、公式戦中断によって5億円以上の損失が見込まれており、選手が年俸の一律カットをクラブに申し出た。総額で1億円弱になるという。J1鳥栖(佐賀)のように経営自体が揺らいでいるクラブも中にはある。
年間100試合なら年俸は3割減
サッカーより売り上げが大きいプロ野球も対岸の火事ではない。
6日の実行委員会では、FA取得日数などの特例を設ける協議が行われることが決まったが、在京放送関係者はこう言う。
「選手の参稼報酬はキャンプ、オープン戦を含めた2月1日からの10カ月間分。試合数に関する文言は野球協約に含まれていないが、球団経営陣には『年俸は143試合が行われる前提で設定している』という声もあり、メジャーを参考に、試合数に応じて年俸がカットされる可能性がある。そうなると昨オフの契約更改で年俸が大幅ダウンした選手は税金問題に苦しみ、低年俸の選手は普段の生活にも困るでしょう」
たとえば、巨人の中島は昨オフ、87%にあたる1億3000万円ダウンの2000万円で更改した。今季の年俸がさらにカットされれば、税金の支払いに苦労するのではないか。
低年俸選手はそれ以上に大変だ。現在の支配下登録選手の最低年俸は430万円。仮に公式戦が100試合に減り、年俸が試合数に応じて「143分の100」になった場合、年俸は約3割カットの301万円になる。
メーカーからの用具提供を受けられず、道具代など野球に必要なお金を自分自身で負担している選手もいる。そうなると日常生活にも支障をきたし、借金をせざるを得ない選手が山ほど出かねない。
「米マイナーではバイトを始めている選手もいると聞いた。バイトでもしないと生活できなくなるかもしれませんけど、そんな時間なんてつくれませんよ」
とは、パ球団の格安年俸選手だ。
球団経営が苦しくなれば、経費の大部分を占める人件費にメスが入るのは必至。そうなると来季の契約にも影響が出るはずだ。前出の放送関係者が言う。
「今年は戦力外の選手が増えるだろう。ベテランや二軍暮らしが続く中堅選手はクビ切りの対象になりやすいし、若手の見切りも早くなるかもしれない。年間試合数、平均年俸が少ないJリーグは、さらに厳しい選択を迫られるのではないか」
■年俸について選手会を直撃
そんな中、スポーツ界では「プロ野球やJリーグには選手のセーフティーネットがない」という指摘もある。
海外ではMLBがマイナー選手、職員らに補助金を支給し、英プレミアリーグは2~5部の下部クラブに約166億円の救済措置を行うという。しかし、今のところ日本ではそうした動きは見られない。選手はあくまで個人事業主。一般社会では、コロナ禍による収入減に苦しむ個人事業主への救済措置が行われるというが、プロ野球やJリーグに救いの手は差し伸べられるのか。
日本プロ野球選手会の森忠仁事務局長は言う。
「今は開幕日や試合数が決まっていないので、選手から年俸についての話は出ていませんが、ゆくゆくはテーマになりうる問題。2004年のストライキで2試合が中止になった際は、統一契約書(第7条=自己の責に帰すべき事由によって野球活動を休止)に応じて、選手年俸(外国人選手を除く)は『300分の2』がカットされましたが、今回の件はこれに該当しないと考えます。まずは選手の開幕までの調整に関する要望などを近々、12球団と話ができればと思っています」
日本プロサッカー選手会の高野純一事務局長はこう話す。
「J1札幌の件は、選手側から事前に相談を受けています。地域やクラブごとに事情が異なる中、選手の貢献の仕方も異なる。今回の年俸返納はあくまで一案と考えています。選手の待遇面に関しては難しい問題ですので、リーグと密に連携を取りながら引き続き相談しているところです」
年俸減は選手にとって死活問題。プロ野球とJリーグはこの重大懸案を解決できるのだろうか。
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