大栄翔が初優勝 平幕V続出「戦国時代」の裏の“角界の凋落”
令和3年も平幕力士のVで幕を開けた。
24日に千秋楽を迎えた大相撲1月場所。2敗で単独トップに立っていた前頭筆頭・大栄翔(27)が隠岐の海を突き出し、自身初の賜杯を手にした。埼玉県出身としても、追手風部屋所属力士としても初めての優勝。インタビューでは、「(賜杯が)あんなに重いもんだとは思ってなかったので……びっくりしたけど、うれしいです、はい」と素朴な反応で観客を笑わせ、「自分の相撲を取り切るしかないと思い、迷いなくいけました」と語った。
■実力者不在の戦国時代
初日から役力士7人全員を撃破するなど8連勝。力強い突き押しで圧倒し、殊勲賞、技能賞を手にした。
スポーツマスコミは、「今の土俵は誰が勝つかわからない『戦国時代』」などと書く。実際、2018年1月場所から、計8人もの初優勝力士が誕生。平幕優勝も栃ノ心(18年1月)、朝乃山(19年5月)、徳勝龍(20年1月)、照ノ富士(20年7月)と計5人もいる。このうち、徳勝龍と照ノ富士は幕尻だ。
戦国時代といえば聞こえはいいが、それは裏を返せば上位陣のだらしなさでもある。休んでばかりの横綱は話にならず、大関は昇進した途端に勢いをなくし、粗製乱造と言われても仕方ないだろう。
相撲評論家の中澤潔氏は「テンポよく攻める大栄翔の相撲は素晴らしかったが」と、こう続ける。
「またも平幕優勝ということは、番付上位に見るべき相撲がないということです。つまり、番付不在と言ってもいい。形だけ横綱や大関の地位はあっても、幕内はほとんど実力差がないに等しい。2回物言いがついた11日目の正代―隠岐の海戦ですが、私が見る限り、2回とも正代の負けです。あれは審判が両者の体勢などを考慮せず、『どっちの足が先に出たか』しか見ていないから、勝ちを拾えただけ。大関としての自覚があるならば、物言いのつく相撲ばかり取ってはいけません」
平幕にポンポン優勝を許している現在の大相撲において、横綱や大関といった地位は飾りでしかない。いまや幕内においては上位も下位もなく、番付の形骸化は深刻だ。
コロナ禍で稽古量が不十分なのは事実としても、それはここ1年足らずの話。なぜ、こうもドングリの背比べになってしまったのか。
前出の中澤氏が言う。
「正しい稽古をしていないのでしょう。基本に忠実に、ケガをしないことを念頭において体を鍛え、稽古に邁進するのが力士本来の姿です。しかし、現状は目先の勝った負けたばかりを追いかけている力士がほとんど。だからこそ、力が安定しないのです」