走塁でボーンヘッドを犯し…心救われた落合博満さんの一言
三塁ベースコーチが「ストップ、ストップ」と声を掛けていたはずだったが、その声すら全く聞こえていなかった。声やジェスチャーを注視し、プレーを目で追わなければいけなかった。アウトにならなければ、走者一、二塁となり、試合に勝てたかもしれない。
「おまえ、いったいなにやってんだ! アウトにならなきゃ、試合がどうなっていたか、わからなかったぞ!」
試合後のロッカーで先輩選手から怒鳴られた。当然の指摘ではあったが、ミスで落ち込む私の心に、怒号がなおさらこたえた。
■本当の意味の野球人生のスタート
そんな時だった。ロッカーで肩を落とす私に落合さんが一言、こう声を掛けてくれた。
「いろんな失敗をすることで、勉強できることはあるんだからな」
宿舎に戻ってベッドに入っても、プレーが頭の中で反芻する。足の速さを買われてプロ入りしたのに、自分自身が興味がなかった。何より大事にしないといけない走塁への意識が低かった。プロで食べていくんだという自覚のなさを痛感し、悔いた。やるせなさが心を埋め尽くす中で何とか踏ん張り、前向きな気持ちになれたのは、落合さんの一言が支えになったからだ。
私は、このミスをした時からが本当の意味での野球人生のスタート地点だと思っている。
もしあの時、落合さんが声を掛けてくれていなかったらと思うと、本当に感謝しかない。=つづく