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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

【新国立競技場】開幕直前の今になっても停滞感が続いている

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 本来であれば6万人の大観衆の中、開閉会式と陸上競技サッカー女子決勝が行われるはずだった新国立競技場。しかし、無観客開催が決まり、周囲はADカードを下げた外国人メディアやボランティアなど、大会関係者だけが行き交う異様な雰囲気に包まれている。

 競技場を取り巻く道路も封鎖され、9月30日までは通行止め。近隣住民からも「これは一体、誰のための五輪なのか」という困惑や怒りの声も聞こえてきそうだ。

 7月8日夜に首都圏での五輪無観客開催が決定し、一夜明けた9日。梅雨時のジメジメした空気が新国立競技場周辺を覆っていた。

 JRの最寄駅である千駄ヶ谷駅から信濃町駅方向に抜ける左手の道は、白い壁に覆われていた。東京体育館ももちろん立ち入り禁止。競技場に近づくと神宮外苑をグルリと囲む都道414号線も、大半は通行止め。通常なら、仙寿院の交差点から日本青年館前は一本道なのだが、「迂回してください」とガードマンに淡々と言われてしまった。

 汗だくになりながら大回りして、ようやく日本オリンピックミュージアム前に出たが、今度は物々しい警備のテントが立っている。

「ADのない方はここまでです」と冷たく言い放たれる筆者の傍らで、外国人記者やスポンサーカードを付けた団体が悠然と中に入り、「TOKYO2020」の大看板が掲げられた競技場の記念撮影をしている。

 五輪ファミリーと一般人の差をいきなり突きつけられた格好だ。

 気を取り直して、明治神宮野球場や秩父宮ラグビー場などがある道を青山方向に進むと、黄色のビブスを着たボランティアが数多くいる。

 が、彼らの仕事は道路を横断する人の手助けと関係者用のシャトルバスの誘導くらい。

 観客が増えた本番は誘導や道案内で忙しくなるはずだったのだろうが、無観客ではやることはない。

「今は暇ですね」と苦笑するスタッフもいたほどだ。

 今回の五輪では運営に関わるボランティアが7万人いて、うち1万6000人が観客の案内、チケットや荷物のチェックに当たる予定だった。

 大会組織委員会は彼らに別の役割を与える意向のようだが、そんな仕事があるのか。疑念は拭えない。

名物ラーメン店も五輪に振り回される

 誤算といえば、近隣のショップも同様だろう。公式スポンサーに名を連ねるアシックスが開発した公式応援Tシャツを販売するファミリーマート各店では特設コーナーを設置。店内に世界各国の旗を天井に装飾するといった工夫を凝らしてムードを高めているが、商品を手に取る人は皆無に近かった。

「本番に人が集まれば売れる」という勝算もあったのだろうが、観客は来ない。ビジネス的には厳しそうだ。

 ジャパンスポーツオリンピックスクエア内にある公式ショップも客足はまばら。

 筆者が訪れた時間帯は店員が2人だけで、某自治体関係者と目される人のグッズ大量買いの接客に追われ、最近の売れ筋商品を聞くことさえもできなかった。

 実は昨夏にも同店を訪れているのだが、「2020年2月にクルーズ船が横浜港に入ってから10日も経たないうちに人の姿が消えた。4~5月の緊急事態宣言が開けてから再オープンしたものの、お客さんは増えない」とスタッフが嘆いていたのを聞いた。

 その後、五輪本番が近づくにつれて多少なりとも期待感は高まったはずだが、開幕直前の今になっても、停滞感は続いている様子だ。

 大規模イベント時には毎回行列ができる名物ラーメン店・ホープ軒も五輪に振り回された側の代表だろう。

「五輪に向けて外国人客が数多く来ると思って英語や韓国語、中国語などのメニューも用意したけど、全く使っていない」と店員がこぼしていたのをやはり1年前に聞いた。計算していた経済効果も得られず、経営サイドは複雑だろう。

 7月23日の開会式は五輪ファミリーを1000人規模まで減らすというが、競技場内外ともに熱気を欠いた大会スタートになるのは間違いなさそうだ。

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