常に淡々としている大石大二郎さんがいち早くハッパをかけてくれた裏側
もうひとつは大石さんの人物像だ。東都は入れ替え戦があり、1部の最下位チームは2部の優勝チームと入れ替え戦を行う。そういう試合の前日はみな緊張して、一夜漬けのような練習をするのだけれど、大石さんは飲みに行っていたというのだ。それだけ肝の据わった人というイメージだった。
実際、近鉄で一緒にプレーしていても、常に淡々としていた。守備では本当に助けられた。股間を抜けた当たりを捕球してアウトにしてもらったこともある。口数が少なく職人肌。そんな感情を表に出さないタイプの大石さんが、いち早くマウンドにやってきて「終わったわけじゃないぞ」とハッパをかけてくれたのは、まだイケるという気持ちと、私を見てこの後、ショックで一気に逆転されそうな雰囲気を察知したのだろう。
■「よし、次行くぞ」
入団して2年目だったと思う。誘われて北新地へ。お酒は強いが、毎日のように飲みに行く人ではなかった。その代わり、行ったときはひと通り律義に挨拶回りをする感じだった。乾杯して、ちょっとしゃべったら、「よし、行くぞ」。「えっ! もうですか?」みたいな感じで、次から次へと何軒もお供をさせてもらった。飲みに行ってもソフトな感じだったから、店のママさんたちには好かれていたと思う。
さて、大石さんのひと言が効いたか、私は続くマドロックを二ゴロ、岡部明一さんを三振に打ち取り、試合は同点のまま九回に突入した。(つづく)