ヤクルト中村悠平がWBC決勝を回想 大谷翔平が「最後の1球」にスライダーを選んだ4つの根拠
「最悪、四球でもええかな……」
試合会場のローンデポパークのボルテージが最高潮に達するなか、中村悠平(32=ヤクルト)は、冷静に心の中でこうつぶやいた。
日本時間3月22日、米国とのWBC決勝戦。日本が3-2とリードした九回裏2死、大会のハイライトを迎えた。マウンドには大谷翔平(28=エンゼルス)。打席にはメジャーでMVP3度のマイク・トラウト(31=同)。中村が「すさまじかった」と振り返った大会史上最高の対決。大谷がカウント3-2から外角に大きく鋭く曲がるスライダーで空振り三振に打ち取り、日本代表が2009年以来の世界一奪還を果たした。
最後のスライダーをチョイスしたのは中村だった。トラウトとの全6球。初球がスライダーで、2~5球目がストレート。そして最後にスライダー。その根拠は明確だった。
「ポイントは4つくらいありました。まず本塁打が一番ダメだと。トラウトは、カウントを取ったストレートを2球とも空振り。タイミングが遅れていた。しかも、カウント3-2になって心理的に真っすぐに振り遅れないよう、(始動を早めるために)肘を上げてくるだろうという読みもありました。加えて、初球のスライダーの見逃し方を見て、大谷のスライダーの軌道がわからないのかなと」
大谷の状態も良かった。わずか数秒の間に頭の中でさまざまなポイントを組み合わせ、導き出した答えがスライダー。そして、「四球やむなし」という割り切りがサインを出す背中を押した。
「2アウトだったし、次の打者も長打があるけど、そんなことを言い出したらトラウトも含めてみんな長打がある。四球でもいい、というくらいの気持ちでサインを出しました。そしたら最後、とてつもない球が来ました」
中村は試合直後、「スローモーションのように、気付いたらミットに(球が)入っていた」と述懐した。今でもその光景は脳裏に焼き付いている。
大谷はマウンドで闘争心をむき出しにし、勝利した直後にはかぶっていた帽子を思い切り放り投げて、歓喜した。準決勝のメキシコ戦では塁上で「カモン!」と咆哮。劣勢に立たされていたチームを鼓舞した。
「(大谷は)ベンチにいる時も含めて、普段から明るく楽しそうにしていました。うれしがるときはうれしがるし、選手の活躍も素直に喜んでくれる。チームを鼓舞することもできる。純粋に野球を楽しむ姿はもちろん、あれだけの世界一のプレーヤーでもそういうところを大事にしている。そんな大谷の姿に共感したというか、大事なことなんだと改めて思い知らされました」