名馬タイトルホルダー生産者・岡田スタッド代表の岡田牧雄氏が明かす「凱旋門賞」参戦の舞台裏
“誤算”の弥生賞勝利で想定外の3歳王道へ
母メーヴェは、4連勝で英ダービーを制したモティヴェイターを父に持つ英産馬だ。半姉メロディーレーン(父オルフェーヴル)は1勝クラスを勝ち上がると、菊花賞に挑戦して⑤着に善戦。ステイヤーぶりを見せつけた。2番仔のこの馬はドゥラメンテとの配合だけに、陣営に伝統の長距離GⅠを強く意識させる。20年10月、中山で芝千八のデビュー戦を快勝すると、GⅢ東スポ杯2歳Sで②着と賞金加算に成功し、GⅠホープフルSも④着。クラシックに望みをつなぐ結果を残す。よもやの“誤算”が3歳春初戦の弥生賞だったという。
「馬主の権利を半分ずつ持つ山田(弘)さんと描いたプランは、『3歳春までは無理せずに菊花賞を目指そう』というもので、当初は皐月賞もダービーもパスする予定だったんです。でも、弥生賞を勝ってしまったら、皐月賞に向かわないわけにはいかないでしょう。続く皐月賞も②着。そうすると、やっぱりダービーへということになる。あの弥生賞が④⑤着だったら、馬に無理させることなく、菊花賞に向かえたと思うんです」
クラシック2戦の後は北海道に戻って充電。牧場に戻った当初は、激戦の疲れが見えたという。
「ウチは、育成期だけでなく、現役の馬も夏に牧場に帰ってくると、夜間放牧を行います。ダービー後のタイトルホルダーはこちらでも当初はテンションが高く、1週間たっても気持ちが変わりませんでした。それで夜間放牧をやめようか悩んだ結果、とりあえず1週間継続。するとテンションが落ち着き、体が増えてきました。結局、3週間続けたところ、見違えるほど状態が良くなったんです。この馬の成長期でした。そこからトレッドミルに入れて、菊花賞に向けて鍛え直すと、2歳3月の時点で思い描いたように、馬体が充実してきたんです」
セントライト記念は展開も進路も厳しくなり、⑬着と惨敗。それでも狙った本番の菊花賞は、自信があったという。
「敗戦のダメージは癒えていたし、何より夏の成長です。素晴らしかった心肺機能はさらに高まっていましたから、騎手には『折り合いだけ気をつければいい。自信を持って乗ってくれ』と話しましたから。実際、スタートからそのまま逃げ切りですから強いレースでしたよね」
ファン投票3位の後押しもあって出走した有馬記念は⑤着。3歳最終戦を終え、4歳は2つ目の目標である天皇賞・春に向けて歩み出す。前哨戦の日経賞をロスの少ない競馬で勝ち切ると、迎えた本番は②着ディープボンドに7馬身差をつける楽勝で菊花賞馬の貫禄を示した。
セイウンスカイ以来23年ぶりとなる菊花賞の逃げ切りVも春天も、舞台はどちらも直線で2度の坂越えがある阪神だ。心肺機能とステイヤー性能の高さは陣営の見立て通りで、岡田氏の相馬眼の鋭さを示している。