「潮鳴り」が話題 葉室麟氏に聞く

公開日: 更新日:

 表題の「潮鳴り」は、寄せては返す海の音を意味する言葉だ。この物語の中には、櫂蔵のほか、家族を捨てたことに取り返しのつかない後悔の念を抱いている俳諧師・咲庵(しょあん)と、惚れた男の裏切りを契機に商売女にまで身を落としたお芳が、波の音に耳を澄ませるシーンが何度も出てくる。

「日本画の中にある日本人のDNAに訴える心情が好きで、よく日本画を見に行くのですが、今年、東日本大震災復興支援の伊藤若冲ら江戸絵師の絵画展が仙台であったので見に行ったのです。その際に東北の海岸に立って潮鳴りを聞いたとき、本書のシーンと重なるものがありました。波の音は時には怨念のように、時には人生に対する呼びかけのようにも思えてきます」

 前作「蜩ノ記」では10年後の切腹を命じられた男を描いたが、本作では死の美学にまとめてしまうのではなく、どんな状況においてもなお生きるということを描きたかった、と葉室氏はいう。

「大きな挫折や失意のあと、人生においては死を選ぶより生きる方が本当に難しい。けれど、どんな形であっても主人公のように生きようとしてほしい。挫折や失意の底に沈んでからこそが人生だと私自身も思っているのです」

▽はむろ・りん 1951年福岡県生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て2005年「乾山晩愁」で第29回歴史文学賞受賞。その後、「銀漢の賦」で第14回松本清張賞、「蜩ノ記」で第146回直木賞を受賞。「無双の花」「散り椿」「この君なくば」「蛍草」など著書多数。

【連載】HOT Interview

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる