「それを愛とは呼ばず」桜木柴乃氏

公開日: 更新日:

「夢や希望を失ったとき、人はどうにかしてバランスを取ろうとすると思うんですね。亮介は自分のずるさを許すことで精神のバランスを保とうとしますが、純粋で不器用な紗希はそうはできない。そんな彼女が見つけた新しい活路が人を幸せにすることでした。現実にもありがちですが、人のためってすごく心地よいことで、しかも大義名分が立つから怖い。人のためは、裏を返せば人のせいですから。紗希ははたから見れば完全な思い込みですが、でも人は皆思い込みで生きてて、だからこそ間違えるんでしょうね」

 狂気をはらんでいく紗希の純粋さは男たちをからめとり、やがて妻の遺志を受け継いで生きることにした亮介へと徐々に距離を縮めていく。男性読者なら、逃げようとしても逃げられぬ亮介の状況にぞっとすることだろう。

「これまで、流された場所で何とか生きていこうとする人、分を知っている人たちを描いてきましたが、今回初めて分が分からない人になりました。人がこうだ、と信じたらそれを止める力は誰にもありません。そして紗希は自分の行為に愛という名前を与えてしまった。明確に名付けてしまうと、窮屈だし、相手を縛ってしまう。だから私はなるべく名付けないようにしています。愛は、いとしいともかなしいとも読みます。何が愛か? という問いは難しいけれど、50歳になった今、愛はいとしさとかなしさが半々かな、と思いますね」(幻冬舎 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  2. 2

    小泉進次郎氏「コメ大臣」就任で露呈…妻・滝川クリステルの致命的な“同性ウケ”の悪さ

  3. 3

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  4. 4

    永野芽郁は映画「かくかくしかじか」に続きNHK大河「豊臣兄弟!」に強行出演へ

  5. 5

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  1. 6

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  2. 7

    関西の無名大学が快進撃! 10年で「定員390人→1400人超」と規模拡大のワケ

  3. 8

    相撲は横綱だけにあらず…次期大関はアラサー三役陣「霧・栄・若」か、若手有望株「青・桜」か?

  4. 9

    「進次郎構文」コメ担当大臣就任で早くも炸裂…農水省職員「君は改革派? 保守派?」と聞かれ困惑

  5. 10

    “虫の王国”夢洲の生態系を大阪万博が破壊した…蚊に似たユスリカ大量発生の理由