台湾が舞台の長編小説「流」を上梓 東山彰良氏に聞く
温暖な気候と温厚な人、洗練された観光地の印象が強い台湾は、1987年までは中国国民党の戒厳令下にあり、国民党と共産党の対立による、憎悪と不穏の時代であった。長編小説「流」はそんな時代に翻弄された、ある一家の物語を骨太に生々しく描いたもの。台湾生まれの著者に創作秘話を聞いた。
台湾がまだ猥雑で混沌としていた頃。国民党の蒋介石が逝去し、台湾全土が喪に服した1975年から物語は始まる。
17歳の主人公・葉秋生は悪友の誘いで小悪事に加担し、進学校から落ちこぼれ校へ転学。喧嘩に明け暮れ、親には愛想をつかされる。そんな躍動感と疾走感ある青春の日々がつづられる。日本とは政治的背景が異なるが、読むと、街並みや人物の描写には、どこか懐かしさが漂うのだ。
「当時の台湾は日本と比べて経済が20年遅れているといわれていました。台湾で75年は、日本でいえば55年、昭和30年代の雰囲気だと思うんです。といっても『三丁目の夕日』のようにほのぼのではなくて、大人は子供を殴るし、子供は殴られるのが当然、みたいな。大人と子供、男と女、紳士とヤクザ、淑女と売女とか、境界線がハッキリしていた時代ですよね」