抑制の効いたしゃれたデザイン
「犬の気持ちを科学する」グレゴリー・バーンズ著
「科学読み物」「ポピュラー・サイエンス物」の装丁は難しいといわれる。このジャンルで見るべき本はないかと物色中、本書に出合う。
カバーは真っ白なエンボス(くぼみ)加工紙。その上にポップな赤インキで1色刷り、とシンプルだ。テーマである「犬」の顔のシルエットと、同色ベタ刷りの帯が印象的(表4側、バーコードはスミ刷りゆえ正確には2色刷り)。内容にマッチしつつ付かず離れず、抑制の利いたしゃれたデザイン。科学モノ特有の「慎重で生硬な雰囲気」とは一線を画す。明朗で軽やか、「オープン」な風貌を追究した成果だろう。
ところで、本の内容を正確に伝えることは装丁の必要条件。ただし、デザイナーにとっては単なるスタート地点だ。「論文」「報告書」など客観的事実を扱う案件には、デザイン上の危うさが付きまとう。正確さを求めるあまり、「読めれば」「間違っていなければ」いいレベル=デザイン度0に堕する誘惑だ。
「いかに魅力的に見せるか」。デザインの最重要課題を忘れた心理状態を自戒を込めて、「正しさに酔っぱらう」と呼ぶことにしている。単行本に限らず学会誌など「特定ジャンルの難しさ」の裏にはいつも「酩酊への誘惑」が潜む。