容赦ない描写力に思わず“2度見”
「『MIZO』写真集」大口勝弘著
タイトルは「溝」、道路脇の側溝の意。基本コンセプトは以下の通り。
「…特殊な方法で撮影…小人が溝の中で写真を撮影しているように…私はこの作品のジャンルをミクロ風景写真と名付けている。」
A4変型、横開き、上製、かがりとじ。表紙にグロスPP貼り、英文タイトルと著者名を空押し加工。
本書を開き、作品に視線を移すと、側溝空間ならではの「見上げる」カメラアングルや遠近感が圧巻。構造上、光の回り方も独特。MIZO=半閉鎖空間は「小宇宙」だったのだ。この手があったか! 嫉妬と羨望の思いを抱きつつページをめくる。すると、「撮って出し」の写真にはない、「画面設計」「企図」が仄見えてくる……なぜか? 思わず、1ページに戻って2度見する。
違和感の大本は、息が詰まるほどの「パンフォーカス」。通常のレンズでは、風景の手前と奥ではピントがズレる。また、レンズの縁に近い部分には「収差」(ボケや歪み)が生じる。だが、本書の場合、どこを切り取っても、ピントが合い収差もほぼゼロ。風景を小分けに「スキャン」したかのようだ。露出もダイナミック・レンジ(明暗域)が異様に広い。結果、ボケやニジミ、トビ、ツブレのない、容赦ない描写力と膨大な情報量を獲得している……。