「大石芳野写真集 戦争は終わっても終わらない」大石芳野著

公開日: 更新日:

 一見すると、どこにでもいそうなおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんなのだが、その相貌の奥深くに簡単に言葉では表すことができぬ壮絶な記憶や体験が刻まれている。

 戦没者の半数が家族や親族同士が殺し合った「自決」だったという座間味島や、西表島への強制移住でマラリアに罹患し島民の90%以上が亡くなった波照間島など、八重山諸島で起きた悲劇にも触れる。

 日本軍の軍曹に夫らを虐殺され放火された久米島の小橋川カマさん(10年生まれ)の「戦争中のことは一日も忘れたことがない。でも、言わないようにしている。話すと周りが暗くなるから」という言葉が、戦争体験者たちの70年の日々を代弁しているかのようだ。

 一方で、著者のカメラはコリアン従軍慰安婦など、日本軍によって蹂躙された外国の人々や戦跡にも向けられる。中国ハルビンの郊外ピンファンで新兵器開発のため人体実験を行っていた通称「七三一部隊」の研究施設の遺構には、まさにアウシュビッツ強制収容所と同様のおぞましさを感じる。


 もはや戦後ではなく、戦前の様相を呈してきた日本。いま一度、彼らの声に真摯に耳を傾け、その70年の日々に思いを馳せなければならない。(藤原書店 3600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  2. 2

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  3. 3

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  4. 4

    ヤクルト茂木栄五郎 楽天時代、石井監督に「何で俺を使わないんだ!」と腹が立ったことは?

  5. 5

    バンテリンドームの"ホームランテラス"設置決定! 中日野手以上にスカウト陣が大喜びするワケ

  1. 6

    菜々緒&中村アン“稼ぎ頭”2人の明暗…移籍後に出演の「無能の鷹」「おむすび」で賛否

  2. 7

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  3. 8

    ソフトバンク城島健司CBO「CBOってどんな仕事?」「コーディネーターってどんな役割?」

  4. 9

    テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭

  5. 10

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ