【受け継がれる戦争体験】直接の体験者の数が年々減少し、戦争体験が空洞化しようとしている。テロの世紀にこそ、戦争体験の継承が必要だ。
「ぼくたちは戦場で育った」ヤスミンコ・ハリロビッチ著、角田光代訳
冷戦体制が崩壊して世界が陶酔したのも束の間、多民族が集ってひとつの国家となっていた旧ユーゴスラビアは分裂し、民族紛争の泥沼に突入した。本書は現ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで育ったひとりの少年の回想記。
といっても普通の文章本ではなく、エッセーの断片と写真、そして著者がSNSを通じて集めた約1000のボスニア人のメッセージを編集してある。背景の知識が必要な本だが、そこは紛争取材歴の長いジャーナリスト千田善が折々に解説文をはさんでいる。ちなみに翻訳はみずみずしい文体で人気の直木賞作家。思いの詰まった好著だ。(集英社 2100円+税)