「幽霊現象」で考察する「死」と向き合う被災地の今
「呼び覚まされる霊性の震災学 東北学院大学 震災の記録プロジェクト」金菱清(ゼミナール)編
震災から5年が過ぎた。この春、話題になった本書は、金菱清ゼミナールの指導教官とゼミの学生たちが、綿密なフィールドワークによって、どのように被災地が「死」と向き合ったかをまとめたものであり、肉体の「死」とは別の次元の霊性についての考察である。
1章では石巻、気仙沼のタクシー運転手の遭遇した「幽霊」現象を伝えている。実際に「空車」から「実車」にメーターが回されるなど、亡き人を乗せた記録が残っているものもあるという。
ある運転手は、6月に真冬のダッフルコートを着ている青年を乗せた。「彼女は元気だろうか?」。そう話しかけられ、振り返ると男性の姿はなく、リボンが付いた小さな箱が置かれていた。
「たとえまた同じことが起きても、途中で降ろしたりなんてことはしないよ」
乗せるのは比較的若い男女が多いという。若い人のほうが、この世にやり残したことがあるという無念の思いが強い。その思いを伝えるためタクシーに乗ったのではないか。若い著者はそう記す。
また他の章では、仮埋葬した遺体を改葬するため、掘り起こしに従事した葬儀社社員の話が取り上げられている。笑いによって、感情をコントロールするという話は、過酷な仕事の内容を知るにつけ、共感を持って受け止められるはずだ。
福島で野生動物を駆除する人々は、放射能で汚染された獲物であるため、食べて供養することができない。メリットがほとんどない中、「楽しみ」と「誇り」、そして浪江町を守るという使命感によって、彼らは活動し続けているのだという。
聞き取りは難しい作業だっただろう。それでもまっすぐに人々の悲嘆に向き合い、起きてくる現象をありのまま見つめたとき、人々の心の中には癒やしが起きる。亡き人は別の形で生き続け、今も残された者に寄り添っているとわかるからだ。読後に祈りのような、静かな余韻が残る一冊である。(新曜社 2200円+税)