「チェルノブイリと福島」広河隆一編著

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 福島原発事故から5年が経った今年は、チェルノブイリ原発事故から30年の節目の年でもある。双方を取材し続けてきた著者が、放射能が降り注いだ2つの大地で何が起き、そしてそこに暮らしていた人々に今、何が起きているのかを記録した写真集。

 今年1月に撮影されたチェルノブイリ原発4号炉のコントロールルームの操作盤の写真。その中央にあいた穴には、かつて緊急停止装置AZ5があった。1986年4月26日未明、実験のためその装置を操作した後に、原子炉が暴走を始めたという。原発から3キロ離れたプリピャチは、原発作業員とその家族が暮らすために誕生した街。事故発生直後に避難のために1200台のバスが集められたが、核事故が周辺諸国に知られてしまうことを恐れた当局の一部の反対により、翌日の昼まで避難が始まらず、その間も住民たちは被曝し続けた。

 ゴーストタウンと化した街には、開園式の直前に事故が起きたために、誰も遊ぶことのないまま放置された遊園地などが、帰ってくることのない住民たちを今も待ち続けている。

 一帯では600を超す村々が消えていったという。その失われた村々を記録する中、著者は高濃度汚染地帯に暮らす人々とも出会う。誰もいなくなった村に住む老夫婦が「孫に送ってやるつもりだ」と見せてくれた収穫したばかりのジャガイモに測定器を向けると、針が跳ね上がったそうだ。

 さらに写真は、原発事故後、甲状腺がん白血病、肉腫など被曝が原因と思われるさまざまな病気に苦しむ罪なき子供たちの現実と悲鳴を、生々しく告発していく。それでも長年、専門家たちは彼らの病気の原因を原発事故のせいだと認めなかったという。「加害者は必ず被害を隠す」とは、著者がこれまでの仕事を通して得た教訓だが、チェルノブイリ同様、福島でも同じことが起きている。

 ご存じのように政府は福島原発事故発生後、「直ちに健康には影響がない」と繰り返しアナウンス。人々はそれを安全だと受け取った。2011年3月13日に双葉町で撮影した写真には、無防備な男性とともに針が振り切れた測定器が写っている。男性は、安全だと思って町に戻ってきていたのだ。この日、町の放射能が東京の2万5000倍だったと発表されたのは、2カ月後だった。

 チェルノブイリの人々を襲った悲劇が今後、時間が経つにつれて福島でも起きてくることは避けようもない。

 震災直後、双葉町で撮影された地震で倒れた瓦屋根の立派な門の写真がある。その隣には5年後、同じアングルで撮影した写真が並ぶ。その2枚はまるで同じ日に撮影したかのようにまったく変わらぬ風景を写し出し、福島の今の現実を静かに読者に問うているかのようだ。(デイズジャパン 3704円+税)


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