建前と実態が乖離する監査役というポストの真実
監査役といえばサラリーマンにとっての“あがりポスト”。取締役および会計参与の職務を監査する役割を担うとはいうものの、実際には何ら責任を果たさずに報酬を得ているとして、「閑散役」などとヤユされることもある。
ところが近年では、企業に不祥事が起こることで監査役も罪を問われたり損害賠償を請求されるケースが増え、安穏と閑散役に甘んじてはいられなくなっている。高桑幸一、加藤裕則編著「監査役の覚悟」(同文舘出版 1900円+税)では、実際の不祥事を取り上げながら、監査役の実態やあるべき姿を考察している。
「企業統治の優等生」と評されてきたにもかかわらず、監査役の機能不全が白日の下にさらされたのが、2015年の東芝不正会計事件だ。東芝は2003年から委員会等設置会社に移行し、社外取締役を増員。執行と監督を分離し、金融庁と東京証券取引所がまとめた企業統治の規範であるコーポレートガバナンス・コードを先取り的に実現していた。
ところがその裏で、東芝の監査機能の実効性は意図的に無力化されていた。監査委員会の委員長には、何と社内出身の元財務担当役員が横滑りで就任。社外委員に至っては、会計・監査の専門家がゼロというありさまだった。結果、同社は過去7年で2248億円も利益数値をかさ上げしていたことが明らかになり、金融庁は73億円の課徴金納付命令を下した。そして、第三者委員会の調査により経営トップらの関与が明白となり、同社は元役員ら5人に3億円の損害賠償訴訟を提起している。
監査役の任務は、経営者倫理の重要性を訴え、それに反する言動がある場合は直ちに警告を発し是正を求めることにあるが、それは決して容易ではないのが日本の企業の実態だ。本書では、監査役を務めていたIT企業の不正を指摘したことで不当な扱いを受け、裁判で戦った“物言う監査役”として知られる古川孝宏氏のインタビューも掲載。
すべてのサラリーマンにとって必読の書だ。