学生一人一人の実力が向上する仕組みがある

公開日: 更新日:

「教えて!学長先生 近大学長『常識破りの大学解体新書』」塩崎均著/中公新書ラクレ/2017年3月

 現在、日本でいちばん入試志願者が多いのは近畿大学だ。「近大マグロ」と呼ばれるマグロの養殖、漫画を2万冊も置いた第2図書館の建設など、マスコミで取り上げられることを計算したパフォーマンスの上手な大学だ。

 しかし、パフォーマンスだけで10万人を超える受験生を集めることはできない。近大学長の塩崎均氏が書いた本書を読むと、この大学は一人一人の学生の実力が着実に向上するような仕組みを至る所に取り入れていることがわかる。

 特に文科系と理科系の壁を相互に往来できる仕組みをつくっていることが興味深い。
<文系、理系、そして医学を専攻する学生が、その持ち味を活かしひとつの課題に取り組むことで、個性と能力の足し算でなくかけ算となって大きな成果を出していくことも文理融合です。それができるのが医学部を含め多彩な学部学科を持つ近畿大学です。/新図書館棟には、文理が一緒に授業をする新しいプロジェクトスペースを30個以上作りました。経営学部の人が医学部の人と、医学部の人が文芸学部の人と出会える場所です。/その小部屋では、学部学科を横断した学生たちがチームを作り、ひとつのプロジェクトに取り組む場として、グループディスカッションをします。学生らのクリエイティブな活動をサポートするために、編集工学研究所の松岡正剛所長をスーパーバイザーとして迎え、この各部屋を囲む外壁部に、テーマごとに7万冊の本を配置しました。さらには、約2万冊以上の漫画も備えます。いわゆる従来の図書館とは異なる本の扱いです。>

 先日、松岡氏が筆者に「近大の図書館では、漫画の束の横に関連テーマの新書を置くというような形で、これまで本に親しむ機会のなかった学生に本を読む機会をつくった。この図書館はいつも学生でいっぱいで、目的を達成できたと思っている」と述べていた。

 塩崎学長は、<本学の建学の精神は「実学」です。伝統は革新の連続といいますが、不変の心は、時代に合わせカタチを変えていくのでしょう。>と述べる。

 近大の成功は、トップの能力で組織は生きもすれば死にもするということを証明する例だ。 ★★★(選者・佐藤優)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    メッキ剥がれた石丸旋風…「女こども」発言に批判殺到!選挙中に実像を封印した大手メディアの罪

  2. 2

    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

  3. 3

    都知事選敗北の蓮舫氏が苦しい胸中を吐露 「水に落ちた犬は打て」とばかり叩くテレビ報道の醜悪

  4. 4

    東国原英夫氏は大絶賛から手のひら返し…石丸伸二氏"バッシング"を安芸高田市長時代からの支持者はどう見る?

  5. 5

    都知事選落選の蓮舫氏を「集団いじめ」…TVメディアの執拗なバッシングはいつまで続く

  1. 6

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  3. 8

    ソフトバンク「格差トレード」断行の真意 高卒ドラ3を放出、29歳育成選手を獲ったワケ

  4. 9

    “卓球の女王”石川佳純をどう育てたのか…父親の公久さん「怒ったことは一度もありません」

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方