「さよなら、田中さん」鈴木るりか著
文学界に彗星のように現れたスーパー中学生の小説デビュー作。小学館主催の「12歳の文学賞」で3年連続大賞を受賞。受賞作に書き下ろし作品を加えて、連作短編集が編まれた。
小学6年生の主人公の名は田中花実。「花も実もある人生を」との願いを込めて名づけられた。父を知らず、貧しい母子家庭だが、明るくて、真っすぐで、優しい。毎日肉体労働に精を出す大食らいのお母さんと2人、たくましく生きている。激安店で半額セールを狙ったり、銀杏を拾い集めて食料の足しにしたり。
笑いの絶えない日常に、ふと影が差すこともある。もしかして、お父さんは犯罪者? うちにはどうして親戚が一人もいないの? 友達にDランドに誘われたけど、お金がない、どうしよう……。それでも、花実ちゃんは格差社会の現実に負けない。
表題作の「さよなら、田中さん」は、花実ちゃんの同級生、三上君が主人公。のぞきの疑いをかけられ、「エロで泣き虫」といじめられているが、「田中さん」だけは味方してくれる。裕福だが孤独な三上君の視点から、田中さん親子が描かれる。笑わせて、ちょっと泣かせる。
作者の成長につれて、花実ちゃんはどんな女性になっていくのだろう。楽しみだ。
(小学館 1200円+税)