「たゆたえども沈まず」原田マハ著
舞台は、19世紀末のパリ。日本美術を扱う美術商「若井・林商会」の林忠正のもとで働くため、加納重吉が期待に胸を弾ませて日本からパリへやってきたところから物語は始まる。
開成学校でパリへの留学を夢見ていた重吉にとって、一足先にパリに足を踏み入れ、美術市場にジャポニズム旋風を巻き起こしていた林は憧れの存在だった。重吉は林に誘われるようにして、パリ美術界の一員となっていく。そこで出会ったのは、ストイックかつ不器用に自分の絵の世界を追求し続けるゴッホと、そんなゴッホの才能を信じて全力で支えようとする弟のテオ。重吉は、ジャポニズムとフランス絵画の交流を通して、フランス美術界に今までにはなかった全く新しい絵画が生まれる瞬間を目撃しつつあった。
アート小説という一分野を切り開いた著者による最新作。有名なゴッホとゴーギャンのエピソードなども盛り込みながら、ゴッホという不遇の画家の一生を日本人美術商との交流を通して描いていく。当時のパリの美術界に、浮世絵などに代表される日本絵画が大きな影響を与えていたことがリアルに伝わってくる。
(幻冬舎 1600円+税)