「非正規ミドル」の増加が日本経済を崩壊させる
今年9月の衆院解散表明記者会見で、安倍首相はこのように述べた。「雇用は200万人近く増加し、今春大学を卒業した皆さんの就職率は過去最高です」。確かに、厚労省が発表する有効求人倍率は上昇を続けており、高度経済成長期を終えて間もない1974年以来の高水準だ。
しかし、だまされてはいけない。雇用の中身を総務省の労働力調査で見てみると、安倍政権が誕生してからの4年間で増えた雇用者数の、実に9割が非正規労働者。年収200万円以下の働き手も増加し、ワーキングプアの問題は何ひとつ解決していない。北川慧一、古賀大己、澤路毅彦著「非正規クライシス」(朝日新聞出版 1300円+税)では、日本を危機に導く非正規問題について徹底分析している。
非正規社員といえば若者ばかりを思い浮かべるかも知れないが、実際には30代半ばから40代半ばの「非正規ミドル」の割合が増加傾向にある。
2016年の労働力調査では、7年連続で増え続けた非正規労働者が2023万人に達し、その割合は労働者全体の37.5%。このうち、働き盛りであるはずの非正規ミドルの数は386万人にも及ぶ。バブル崩壊後に労働市場に入った非正規ミドルは、新卒時に就職氷河期を迎えた世代と重なる。
当時の経済状況が厳しかったために非正規になることを余儀なくされた人たちが多いが、正社員への転換も日本の雇用慣行の壁に阻まれ、非正規労働者のまま年齢を重ねているのだ。
自分とは関係ない世代などとは言っていられない。子育て世代でもある非正規ミドルの経済的基盤が脆弱なままでは、家族を築き子育てしようという意欲も持てなくなる。日本の少子高齢化は加速するばかりだ。また、非正規労働者の増加は正社員の働き方にも影響を及ぼす。少ない正社員に対する長時間労働の負担は増す一方で、2016年の労災調査では、過労などが原因で精神障害となり労災請求した人が1586人と過去最多となっている。
政府は「働き方改革」で長時間労働の是正をうたうが、あまりにも現実味がない。日本経済の持続には、まず非正規問題の解決が不可欠であることを、国民の共通認識にしなければならない。