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「西郷どん! 上製版(上・下)」林真理子著

 明年は明治改元から150年。NHK大河ドラマの主人公には明治維新の大きな原動力となった西郷隆盛が選ばれた。そこで今回は、大河ドラマをより楽しむための予習にぴったりな“英雄”西郷隆盛の人生をさまざまな角度から描いた小説を紹介する。

 NHK大河ドラマの原作本である。

 明治37(1904)年10月、京都市役所に新しい市長が着任する。新市長はあの西郷隆盛の息子・菊次郎だった。歓迎の祝宴で、芸妓らが披露する妹のことを歌った手毬唄を聞いた菊次郎に、奄美大島で母と妹の3人で暮らした日々が蘇る。西南の役後に、アメリカや台湾で暮らしてきた菊次郎は、このような手毬唄が生まれていたことを知らなかった。菊次郎は、高級助役に招いた川村に請われるまま、父・西郷隆盛の生涯について語り出す。

 幕府や尊王攘夷、討幕派などの各勢力が入り乱れる複雑な幕末の情勢の中、さまざまなことに関わった西郷隆盛の数奇の人生を歴史小説初心者にも分かりやすく活写。女性作家ならではの視点でこれまで語られてこなかった奄美大島時代の妻・愛加那とのラブストーリーも描く。

 (KADOKAWA 各1700円+税)

「英傑 西郷隆盛アンソロジー」池波正太郎ほか著

 明治維新史を専攻する学生の本間は、京都から帰る列車の食堂車で老紳士に出会う。

 老紳士は本間が卒論で西南戦争を取り上げることを知ると、「他言をしないなら教えてあげましょう」と言ってきた。

「西郷隆盛は城山の戦いで死ななかった。今日までも生きています。その証拠には、今この上り急行列車の1等室に乗り合わせている」と。

 いぶかしがる本間は促されて1等室に行くと、はたして老紳士が“南洲先生”と呼ぶ男性が眠っていた……。(芥川龍之介著「西郷隆盛」)

 吉川英治、菊池寛ら6人の文豪が青年期から西南戦争、没後の伝説まで西郷隆盛の知られざる素顔を描いたアンソロジー。

 (新潮社 520円+税)

「西郷隆盛 荒天に立つ山の如く」髙橋直樹著

 慶応3(1867)年暮れ、五代才助(友厚)は京に向かうため鹿児島を出港直前、盟友・坂本龍馬の死を知る。2人の因縁を知る西郷がわざわざ手紙をくれたのだ。年明け早々、鳥羽伏見で薩長は幕府に圧勝。上機嫌の大久保一蔵(利通)に迎えられた五代は、10年前、幕府に追われて鹿児島に帰ってきた西郷が、近衛家の僧・月照と入水自殺を図り、生き残った経緯を大久保から聞く。その後、西郷は奄美大島に潜居中に召還されたものの、藩主久光によって今度は沖永良部島へと島送りになってしまう。元治元(1864)年、大久保の尽力によって赦免された西郷は、長崎にいた五代に会いに来る。

 西郷隆盛の人生のターニングポイントである奄美流罪、倒幕、西南戦争を、大久保利通や五代友厚、坂本龍馬ら、共に時代を生きた英傑らの視点から描く。

 (潮出版社 630円+税)

「大獄 西郷青嵐賦」葉室麟著

 こちらは人気時代小説家が、明治維新前夜の西郷隆盛を描いた感動長編。

 嘉永4(1851)年、お家騒動を経て、島津斉彬が薩摩藩の新藩主に就任。薩摩藩が支配する琉球にたびたび現れる外国艦隊に脅威を抱く斉彬は、ただちに洋式船の建造や大砲や小銃の生産、反射炉や溶鉱炉の建設など、近代化を目指す新事業に次々と着手する。

 3年後、斉彬に抜擢され、江戸に出府した下級武士の吉之助(のちの西郷隆盛)は、お庭方を拝命。

 数カ月後、病に倒れた斉彬の枕元に呼ばれた吉之助は自分が登用された真の理由を聞かされる。それまで、家中の争いごとに目を奪われていた吉之助にとって考えてもいなかった話で、主の考えの深さに感銘した吉之助は、地獄の果てまでなりとも、主に供する決意を固める。

 (文藝春秋 1700円+税)

「西郷隆盛と大久保利通 破壊と創造の両雄」立石優著

 春風のようなおおらかな西郷隆盛と、峻厳人を圧する大久保利通。相反する性格ながら、終生変わらぬ友情で固く結ばれていた2人の関係を描く歴史長編。

 吉之助(のちの隆盛)と正助(利通)の出会いは「御中」だった。御中とは、地域ごとに組織した結社で幼児から薩摩武士の精神教育をなすための薩摩藩独自の制度。御中内で、吉之助はごく自然体で仲間を統率、年長者にも人望があったという。一方、3歳年下の正助は、幼いころ手の付けられないほどわんぱくだったが、やがてその論理的な弁舌で周囲から一目置かれる存在となっていく。

 少年時代から深い絆で結ばれた2人は、やがて倒幕運動に邁進。そして西南戦争で袂を分かったため、利通は後に権力志向の敵役と描かれることが多いが、凶変に倒れた利通の懐中には西郷からの手紙があったという。

 (PHP研究所 780円+税)

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