【そんたく、する?】今年の流行語大賞にも選ばれた「忖度」。アナタ、読めますか、書けますか、正しい意味を知ってますか?
「忖度社会ニッポン」片田珠美著
忖度とはなにか。本書の定義では「相手の指示がなくても」「相手の意向を推し量り」「先回りして満たそうとする」こと。たとえば森友学園問題。首相夫人が名誉校長に就任した途端、学園には「神風が吹いた」(籠池元理事長)。しかし、首相夫人は別に神風を吹かせたわけではない。むしろ「首相夫人」という立場の影響力にあまりに無頓着だったために「名誉校長」というエサにまんまと食いついたのではないか、というのが本書の見立て。
では忖度は? 直接の担当者である近畿財務局(つまり財務省)が「配慮」したのだ。当たり前の分析のようだが、フランスでラカン派の精神分析を学んだ著者は「他者の欲望」というラカン派のキーワードでこれを読み解いた。「他者の欲望」を察知し、先回りして実現させることこそ「忖度」だからだ。
しかし、これは特別なことではない。日本だけの話でもなく、役人だけでもない。「近ごろの若いのは気配りができなくて」とオヤジ世代はボヤくものの、これまた「他者の欲望を察知し、先回りして実現させる」ことなのだ。著者は、世界中のどこにでもある結婚詐欺を例に、「忖度」の心理的メカニズムを明らかにする。その上で、なぜ忖度が日本でこれほど目立つのかという問いに挑む。
(KADOKAWA 800円+税)
「目くじら社会の人間関係」佐藤直樹著
地震の被災地に義援金を寄付したことをSNSで発表したところバッシングを受けた芸能人。善行が非難されるなど海外ではあり得ないこと、と憤る著者は独自の「世間学」を提唱し、「世間学会」まで立ち上げた刑事法学者。
バッシングや炎上騒ぎなどは何かにつけ他人の振る舞いに「目くじら」を立てる行為。アイドルの恋愛禁止が「アイドルだから当たり前」と許容される。ミスコンの日本代表にハーフ女性が選ばれると異論が起こる。著者はこれらは「世間」のしわざという。「世間」とは「信心深い日本人が編み出した」「みんな同じ」以外を排除する日本独自の特異な空間。「忖度」もやはりこの産物だろう。
(講談社 860円+税)
「もの言えぬ時代」朝日新聞東京社会部編
今年4月、朝日新聞が連載した聞き書きシリーズ「問う『共謀罪』」の文庫化。元の連載では元刑事など捜査畑の実務家出身者へのインタビューが多数含まれていたが、ここでは文化・知識人を中心にまとめ直され、内田樹、髙村薫、半藤一利氏らへの長いインタビューも新規に収録。
「共謀罪の一番の問題は、権力によって恣意的な運用がなされること」と言う小林よしのり氏、「一般人は対象にならない」という曖昧な政府の説明を「『対象になる』と考えるのが知恵ある国民の態度」と言い切る溝口敦氏など、忖度せず体を張ってきた人々の発言に一番の説得力がある。
(朝日新聞出版 760円+税)