ベトナム反戦運動の最盛期から50年 まだ戦争は終わらない
「ヴェトナム戦争ソンミ村虐殺の悲劇」マイケル・ビルトン、ケヴィン・シム著 藤本博ほか訳
ベトナム戦争当時、世界中で巻き起こった反戦運動。特に50年前の1968年は「パリ五月革命」や東京・新宿の「10・21闘争」(別名「新宿米タン闘争」)がベトナム反戦の機運と連携していた。そんな中、メディアの暴露で発覚したのがベトナム中部にあるソンミ村で約500人の村民を米軍がなぶり殺した「ソンミ村虐殺事件」だ。本書はこの事件に関するドキュメンタリー番組を制作したイギリスのジャーナリストによる詳細な再現記録の書である。
本文だけで500ページを超える大冊が描くのは、虐殺の詳細な顛末(てんまつ)に加え、事件後に隠蔽を図った軍上層部のもくろみがことごとく崩れていく過程。ウォーターゲート報道に先立つ3年前、フリーの記者による徹底した調査報道が軍の分厚い機密の壁を破る一方、現場の兵士たちからも疑問の声が上がり、「権力に立ち向かう」ことと「愛国者であること」は矛盾しないという現代的な常識を生む一助となったのだ。
日米の権力者が平気でマスコミを「フェイク」呼ばわりする今、改めて振り返りたい。(明石書店 5800円+税)
「アメリカ暴力の世紀」ジョン・W・ダワー著 田中利幸訳
冷戦時代を「平和な時代」と呼び、冷戦後の現在を「新しい平和期」と呼ぶ学者たちがアメリカには多い。統計的に見れば大国間の大規模な戦争が少なかったからだ。
しかし、著者は真っ向から異論を唱える。朝鮮、ベトナム、アフガン、イラン・イラクの戦争はいずれも冷戦期。その後もバルカン半島、アフリカ、南アジアなどで紛争は絶えない。しかもその多くにアメリカは軍事的に関わってきたのだ。
アメリカの本性に刻まれたかのような暴力を根底からえぐり出し批判する著者は、アメリカで最も尊敬される日本史学者。「美徳とその実践において(自分たちが)他のあらゆる人々に優る」と信ずる「アメリカ例外主義」の傲慢を厳しく問いただしている。(岩波書店 1800円+税)
「軍人が政治家になってはいけない本当の理由」廣中雅之著
「政治と軍事の関係を考えることは民主主義の本質について考えること」と明言する著者は、航空自衛隊きっての国際派元エリート幹部。
自衛隊は「軍隊」ではないが、実質的に高度な国防機能を持つ点で、日本にも「事実上、政軍関係は存在する」。しかし、国民の軍事に関する知識は薄く、「自衛隊の明記」を改憲の突破口にともくろむ安倍政権に対しても情緒的な反論しかできてない。著者は独善的に暴走した戦前の旧軍と自衛隊がいかに異なるかを示しつつ、軍人が政治的意見を表明したり、政治判断で動くことを固く戒める。
ベトナム戦争の失敗に学んだといわれる軍人出身の米パウエル元国務長官についても、統合参謀本部議長時代に湾岸戦争時の判断が「政治的であり過ぎた」として強く批判しているのが注目される。改憲論争を単なる感情論にしないためにも有用だろう。(文藝春秋 860円+税)