「性の進化史」松田洋一著

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 自民党の某議員が、LGBTのカップルは子どもをつくらない、つまり生産性がないのだから、彼ら彼女らに税金を使うのはいかがなものかと疑問を呈したことに対し、内外から大きな批判が寄せられている。加えて、同議員は「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は『秩序』がなくなる」とも危惧している。どうやらこのご仁、男と女のカップルこそが「普通」で「常識」だとお考えのようだ。

 そんな「常識人」にぜひとも読んでもらいたいのが本書。そもそも生物はなぜ、♂と♀の「性」を持つに至ったのかという根源的な問題から説き起こし、その仕組みから性染色体の進化過程を明らかにしてくれるのだが、冒頭には衝撃的な事実が報告されている。男性の精子の数と濃度はともに年々減少の一途をたどり、今後、男性の生殖能力の低下や不妊男子の増加が予想される。さらには、ヒトのY染色体そのものが500万~600万年後には消失するとも。

 原初の生物に性はなく、無性生殖によって子孫を増やしていったのだが、性を獲得することで多様性が生み出される。また♂か♀かの性決定も多様であり、一個体が雌雄どちらかに転換したり、集団内で一個体のみが♂か♀になったり、温度によって性転換が促されたりもする。ヒトの場合はY染色体があるかないかで性が決定されるが、時にXXY(男性だが、女性的な体つき)、YがなくXのみで、女性だが不妊という場合も出てくる。

 要は、地球上の生物は実に多様であり、われわれヒトもそうした進化の過程に生きているということだ。そうした生物学的多様性の観点からも、男女の組み合わせのみが“普通”で、そうでないものを排除するという考え方こそが“非常識”だということが、本書から読みとれる。  <狸>

(新潮社 1300円+税)


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