「親の介護には親のお金を使おう!」太田差惠子氏

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 親が突然倒れて入院、あるいは介護が必要になったら? 手続きや費用は誰がどう仕切って負担するか。そもそも老親の経済状況を把握している子は少ない。「うちはまだ大丈夫」と、たかをくくっていないだろうか。

「親に判断力がなく、意思疎通できない状態になったときを考えてみてください。銀行のキャッシュカードも暗証番号がわからずお金をおろせない。親が入っている医療保険や生命保険もわからず、子が費用を負担せざるを得ないケースもあります。そうなる前に、親の懐事情をきっちり把握しておくことをお勧めします」

 少なくとも、親の預貯金がある金融機関のカードの暗証番号は押さえておきたいところだ。できれば、月々の年金額、株や不動産、ローンや負債額、医療保険や生命保険の証券の保管場所なども把握すべきだという。

「親が元気なうちに確認しておくのがベストですが、強引に聞き出すのは法律に触れることになりますし、『財産狙いか!』と怒り出す親もいるでしょう。それでも懐事情はまず確認しておいてほしいんです。親の入院や介護で困った人を山ほど見てきましたから。もしもの時は『普段からどれだけコミュニケーションがとれている親子であるか』が試されるわけです」

 本書では、介護にまつわるお金に特化した実用情報がまとめてある。一般的には難しくて敬遠しがちな確定申告や控除の話、介護サービスや施設の費用、親の家を現金化する方法や世帯分離で負担を軽減する方法など、親の介護で損をしないための情報が満載だ。特に、行政の制度は自己申告制なので、知らないと損をすることもあるのだ。著者は「介護はマネジメントである」と強調する。

「親のお金で賄える範囲で、適切な制度やサービスを見つけ、導入する。仕事感覚で『マネジメント』と思えば、現役で働く人にとってはそんなに難しいことではありません。親の排泄・入浴・食事の介助を直接しなくても、介護のプロと連携してサービスを手配する。これも立派な介護です」

 ところが、ここで立ちはだかる問題がある。日本で横行している家族主義と親孝行礼賛だ。「子が親の介護をするのは当たり前」「育ててくれた親に恩返しするのは子供の義務」という感覚が強く、介護費用を子が負担するケースも多い。本書のタイトルに不快感をあらわにする人もいるのだとか。

「日本社会では、いまだに介護とお金を絡めて論じるのはタブーなんですよね。でも、人生100年の時代に、親の介護に自分のお金をつぎ込んでいる場合じゃないんです。親はもちろん、自分も100歳まで生きなきゃいけない。2~3年の費用なら何とかなっても、数十年は無理です。親のために介護離職する人もいますよね? 結果、親子共倒れで、生活保護に陥り、引きこもりになる話も珍しくありません」

 特に危ないのは独身男性。40~50代はもちろん、若い人も親の介護費用を出してあげたいという気持ちが強いそうだ。

「優しいんですよね、男性は。親の介護に『月に5万円だったら出せる』と皆さん言うんです。また、シングルの男性は『僕は身軽だから』とおっしゃる。親孝行や恩返しという言葉も、男性がよく口にします。女性はそんなこと絶対に言わないし、もっと現実的です。たとえ親の年金額が少なくても、使える制度は逆にたくさんありますし、戻ってくるお金は想像以上に多いんです。介護費用も医療費も申請次第ではドーンと安くなりますから。自分のお金は出さなくてもマネジメントで親孝行も恩返しもできると思ってください!」

(集英社 1400円+税)

▽おおた・さえこ 京都府生まれ。介護・暮らしジャーナリスト。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、「介護と仕事の両立」「介護とお金」「遠距離介護」などをテーマに講演・執筆を行う。主な著書に「親の介護で自滅しない選択」「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」「遠距離介護」などがある。

 

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