「ゴールデン街 コーリング」馳星周著
主人公は、北海道の田舎から上京してきた大学生の坂本俊彦。コメディアンであり、ハードボイルド作家としても名高い斉藤顕の書評のファンだった坂本は、編集部付に送った斉藤へのファンレターが縁となって、彼に誘われるまま、別名「日本冒険小説協会公認酒場」とも呼ばれる新宿ゴールデン街のバー「マーロウ」でバイトを始めた。文芸談議が好きな客が集まるバーで働けるとあって、当初は喜んでいた坂本だったが、次第に斉藤の酒癖の悪さに辟易し始める。さらに地上げ屋が跋扈するなか、ゴールデン街の存続を危ぶむ声も出始めた。そんなある日、店の常連「ナベさん」が、放火取り締まりの見回り途中に殺されるという事件が勃発。坂本は、犯人を突き止めようとするのだが……。
本書は、著者が「不夜城」でデビューする以前に、本と酒好きが集まったゴールデン街で過ごした青春の日々を描いた自叙伝的小説。若き日にたどり着いた街で本と酒と女に溺れ、このままここにいてはダメになるのではないかと迷い、悩み、揺れる様子が描かれる。創作の原点となった、街に対する複雑な思いが熱い。
(KADOKAWA 1600円+税)