最新おもしろ小説特集
「帝王の誤算」鷹匠裕著
梅の便りもちらほら耳に届くが、春はまだ遠い。インフルエンザも猛威を振るっており、こんな時は外出を控え暖かい部屋で読書に限る。ということで、今週は何日でも家にこもっていても飽きがこないよう、ピカレスクやシミュレーションなど、さまざまなジャンルのおもしろ小説を紹介する。
◇
1982年、真美は日本最大の広告代理店・連広に途中入社する。前年、同社の社員だった夫が過労死。会社には在職中に亡くなった社員の子弟を採用する制度があり、真美は幼い息子の養育費を得るために会社と交渉して、特例が認められ、常務・城田の秘書に配属される。
営業全般を統括する城田は、「取り組んだら放すな。殺されても放すな、やり遂げるまでは」など「十の掟」を社員に課した中興の祖の第4代社長・押多の信奉者で、忠実な後継者だった。業界トップの企業の広告を独占する連広だが、自動車トップのトモダのコンペで、連広は業界2位の弘朋社に負けてしまう。城田は仕事を奪い返すために意外な手を打つ。
万博や都知事選、サッカーW杯などを手掛け、「帝王」と呼ばれた広告人の人生を描く企業小説。
(KADOKAWA 1700円+税)
「デルタ」杉山隆男著
アメリカが尖閣諸島に関する方針を転換し、防衛義務はないと通告してきた。公になれば中国が動きだすのは必至で、政府は極秘に対応を練る。そんな中、尖閣沖で海上保安庁の最新巡視船「うおつり」が武装集団に襲撃される。巡視船を支配下に収めた一味は、応援に駆け付けた僚船のヘリまで撃墜する。直後、ツイッター上に犯行声明をアップした愛国義勇軍を名乗る武装集団は、中国共産党に代わって尖閣諸島の占拠を宣言する。
官房長官直属の内閣危機管理監・門馬は、中国政府がテロ撃退を口実に人民解放軍を出動させる事態を危惧。一刻も早くテロ組織を制圧する必要を訴え、自衛隊の極秘実戦部隊「Δ(デルタ)」の出動を総理に進言する。
あり得るかもしれない尖閣諸島での戦闘を描くシミュレーション小説。
(新潮社 2200円+税)
「特捜投資家」永瀬隼介著
元新聞記者のフリージャーナリスト・有馬は、取材で潜入したセレブパーティーで、数百億円の資産を動かす凄腕の個人投資家・城と口論していた男に興味を抱く。会場を後にした男を尾行すると、小さな学習塾の経営者・兵頭と分かる。
調べると兵頭は東大卒で自主廃業した大手証券会社の元社員だった。さらに過去を公開していない城がかつて兵頭の同僚だったことを知った有馬は、城に面会を申し込む。面会に応じた城は、肝心の質問には答えず、逆に有馬にあるベンチャー企業とその経営者・黒崎について調べるよう依頼してくる。EV(電気自動車)用の次世代電池の開発に成功した黒崎の会社は、自動車業界の革命児と喧伝されていた。
立場も収入も違う訳アリの登場人物たちが巨悪に挑むピカレスク小説。
(ダイヤモンド社 1500円+税)
「ピーク」堂場瞬一著
新聞記者の永尾は、法廷で17年ぶりに竹藤の姿を目にする。元プロ野球選手の竹藤は、17年前、新人で22勝をマーク。その年のMVPにも選ばれたが、シーズンオフに野球賭博容疑で球界から永久追放された。野球賭博の特ダネを書いたのが駆け出しの永尾だった。
永尾は17年間、球史に残る選手を破滅に追い込んでしまったことを気に病んでいた。法廷に立つ竹藤は、殺人事件の被告だった。赤坂のスナックでトラブルになった客を刺殺したという。公判を傍聴する永尾は、凶器の包丁が竹藤の私物だったと知り疑問を抱く。
営業マンとして働く竹藤が用もなく包丁を持ち歩いていたとは考えられないからだ。永尾は竹藤の空白の17年間の取材を始める。
23歳で共にピークを迎えてしまった2人の人生が再び交錯する。
(朝日新聞出版 1600円+税)
「北方領土秘録」数多久遠著
2016年12月、首相の地元で行われた日ロ首脳会談で解決されるはずだった北方領土問題は、
再び暗礁に乗り上げた。元自衛官の著者が、当時水面下で起きていた情報戦を描く「歴史」小説。
16年春、外務省ロシア課で北方領土問題に取り組んでいた芦沢は、異動でウクライナの日本大使館に赴任。領土問題に携わるために外交官を志した根室出身の芦沢は、新たな赴任地で問題解決のための援護射撃となるような仕事をしようと心に決めていた。
5月、防衛駐在官の瀬良と同国の軍事企業の視察に出向いた芦沢は、退職した同社のエンジニアが北朝鮮のロケット開発に関与している可能性を疑う。どうやらロシアの情報機関が手引きをしているようだ。芦沢と瀬良は、ウクライナ当局と密かに連絡を取り合い、その真相に迫る。
(祥伝社 1600円+税)